羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》




 二足歩行の白犬。

 三頭身の巨大な鬼。

 無数の九十九髪。

 琵琶。

 土蜘蛛。

 小鬼。

 数え出したらきりがないほどの数と、種類である。


 地区長と並んでいる白髪白衣の少年は、白澤と思わしい。

 白澤は忌まわしげに酒童に一瞥をくれる。


「そいつが、九鬼のせがれか」


 白澤が言った。

 しかし、酒童は“九鬼”がなんなのかを存じていない。

 鬼門は顔に疑問符を浮かべる酒童の前に歩み出て、厳格に眉をひそめて一礼した。


「申し訳ありません、白澤どの」


 鬼門は礼儀正しかったが、その眼はいまにも抜刀せんばかりである。


「そろそろ、地区長を放してはいただけませませんか?
白蛇に締め付けられるのは、羅刹とはいえ思いのほか痛いのです」


 鬼門が告げたのを聞き、酒童はぞっとして地区長・加持の体に目を凝らす。

 見れば、数メートルもある純白の長蛇が、その体に巻きつき、拘束している。


「地区長!」


 酒童は小さく叫ぶ。

 体を拘束していた長蛇の荒縄が解かれると、加持は縛られていた時に僅かに力んでいた眉を緩める。

 おそらく加持は、酒童たちがくる前からここにいたのだろう。

いや、もしかすると拠点にいた時から、加持は拘束されていたのかもしれない。

 しかしあれでは、まるで“人質”である。


「静かになさい」


 鬼門が物怖じせず、酒童をたしなめる。





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