羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


 途端に、屈強な精鋭たちの目が、一挙にして酒童に集中する。


「細いな」

「呪法班の精鋭じゃないのか?」


 誰かが、ぼそりと口にした。

 呪法班と羅刹を兼ねた精鋭を言うなら、隣にいる天野田のことである。


「そこの、長髪の君が、酒童くんか」


 地区長の感情のない瞳が、突然の出来事に驚愕する酒童を映す。


「はい」


 酒童はそれでも落ち着きを払い、淀みなく返した。


「君はどうだ。

新米が派遣されてきても、対処できるか」


 地区長の物言いは、一見は控えめだ。

しかしその威圧感らしきものは、一糸乱れず「やれ」と命令している。

さらに鬼門からも、日本刀のごとく鋭利な眼差しを向けられている。


 ……これはもう、なにがどうあっても、


「はい」

 と、答えるしか、選択肢がないらしい。


「……はい」


 酒童は声を振り絞る。

 ふと視線を右下にそらせば、そこでは天野田が、さも「どんまい」と言いたげに苦笑している。

そして酒童にさしむかうと、ポン、と遺影にでも合掌するように手を合わせた。


《ま、せいぜい頑張るんだねぇ》


 そう言いたいらしい。


(この野郎、人ごとか)


 いや、確かに他人事なのだが。

みんなして、全部を酒童に押し付けるつもりらしい。


(社畜ってのは、こう言うことを言うんだな)


 酒童は胸中で毒を吐く。


「……わかった。

では人員不足の班には、それぞれ派遣隊員を送る。

他に異論がある者は」


 地区長が見渡すが、この場で首を横に降るものは皆無であった。


「いないな。

では、これにて、緊急会議を終了とする」


 実に短い、会議とも呼べない会議だった。

 話し合いも一切していない。

それでも酒童には、この時間はこの上なく濃密な時間に感じられた。







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