夢幻の魔術師ゲン
「ベルは、グローナの育ちなの?」

「左様でございます」

「ふーん。じゃあ、この街に詳しいんだよね。ちょっと聞きたいんだけど、クロスティアって何だか知ってる? 家名とか土地の名前だとは思うんだけど、もし知っていたら……」

 ところが、質問の途中でベルの顔色が何やら優れなくなった。

 彼女は大きく目を見開いて口元に手を当て、そのうち本当に蒼白な顔となる。

「ク……クク……クロッ、クロロ……ッ、クロスティア!? クロスティアって……あ……しっ、知りません。わたくしは何も……っ」

「え? ベル?」

「し、失礼します。奥様や旦那様が食堂でお待ちですので……ステラ様もお早めに。あー忙しい、忙しい」

わざとらしく話を終了させた少女は、そそくさとその場を離れ去った。

一人部屋に残ったステラは首をかしげる。

「私……何か変なこと言ったかな」

 クロスティアが何だと言うのだろう。

 胸の内に疑問を抱えたままステラは着替えを済ませると、食堂へと足を運んだ。
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