②灰川心霊相談所~『闇行四肢』~
 ――しかし。

 そんな私達とは裏腹に、並べられた遺留品と部屋の箪笥に視線を送りながら、ゆっくりと灰川さんだけは落ち着いた表情を浮かべていた。


「篠林さん、他の被害者の死に様を教えてくれますか?」



 ……なんて質問だ。

 この人はそれをいつも通り表情を一切崩さず言ってみせる。



「ああ、殺害現場の状況は画像として保管してある。……非公開情報だが、もうこの際関係ねえや。それだけ、逼迫してる状況なんだからな。――ほらよ。」


 ――誰も彼も。

 頭のネジが数本飛び抜けている。



 篠林刑事は黒い端末を灰川さんに渡すと、現場の写真が映し出された。

 指でタップして画像を次々にスライドしていく。

 皆、箪笥のすぐ近くで、もしくは箪笥の中で『達磨』にされているようだ。

 さすがに死体こそ映されてはいないが、死体の位置を示すテープでそれが読み取れる。



「……白条君、君の知っている『ダルマサマ』の噂は、あのサイトから得たものだけではありませんね」


「あ、はい。俺は他にも口コミや、直に話を聞いたりしてますからね」


「『箪笥』との関連性についてはそこでの証言から?」


「はい。『箪笥』を使って、『ダルマサマ』を対象者の元へと送り込むんです。その為の『扉』として使われ、また殺害もその中で、というのが有力な説です」


「――ほぼ、確定ですかね」



 静かに言う。

 しかし、その顔はどこか虚しげで、残念そうですらある。

 そして小さくぼやく「……つまらない真相だ」。



「……どうしたんですか、灰川さん」


「今回の『実行犯』を、手っ取り早く確かめる方法があります。相応の危険は伴いますが、以降の被害は食い止められるでしょう」



 灰川さんは、上を向き顎をポリポリと掻くと、おもむろに提案する。



「時間もあまり残されていないことですし、ここで始めてしまいますか」



「なにを?」



「面倒なので、『本人』に直接ききます」



 さらりとそう流すと、彼は準備を始めたのだった。
 

 ――何の準備か。

 
 答えは決まりきっていた。

 
 『ダルマサマ』の儀式である。

 
 ――『本人』。

 
 灰川さんはこう言ってるのだ。

 
 『ダルマサマ』に直接訊く、と――。


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