青い猫の花嫁

「藍原は決まった?あ、この魚介のアツアツスープスパとかうまそうじゃん?」


ジッとメニュー表を睨んでいたトワに、松田君が何とも親しげに話しかける。

はわわ!猫舌のトワにアツアツとか無理でしょ!



「魚介嫌い。熱いのとか絶対無理」


案の定、トワはきっぱり否定する。
朝の一件で、トワは猫かぶるのやめたらしい。
ものすごーく不機嫌そうに、松田くんに答えるトワは、明らかにいつものトワだ。

エンジェルスマイルは、いいの?トワ……。

松田くんの方も、そんなトワに屈せずにいつもの人の良さを発揮してやたらとトワの世話を焼いていた。

ヒヤヒヤしていたその時、爽子が大きな声で厨房に声をかけた。



「すみませ~ん、注文いいですかぁ?」


その声が、やたら店内に響く。

それもそのハズ。
このお店……アンティーク調ですっごくオシャレ。
BGMは耳になじむジャズですごく落ち着いた雰囲気。
……なんだけど、お客さんがほとんどいないんだもん。

あたし達の他に、年老いた老夫婦が一組。
サラリーマン風の人がひとり。

それくらいだった。


落ち着き過ぎでしょ……。



「はいは~い。お決まりですかぁ?」



お店の中を色々見ていると、聞き覚えのある声がして顔を上げた。
それも、爽子同様このお店に似つかわしくない元気な声。

赤茶色の柔らかな髪を、後ろで束ね。
人懐っこい笑顔を向ける、その人をあたしは知っていた。


あ……。


「れ、廉次さんっっ!!?」



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