さよなら自転車
さよなら自転車
暑い。

朝だって言うのに陽射しは既に強くて、家の前に立っている私の足元に色濃いシルエットを作り出していた。

玄関から外に出て数分。私の額にはもう汗が滲んでた。

昼にかけてもっと暑くなるかと思うと溜め息が出る。


7月後半。もうすぐ夏休み。
季節は私達よりも一足も二足も早く夏本番を迎えているみたいだった。

私は腕時計を確認した。
7時49分をとうにすぎてる。

家の前の角を見つめて耳を澄ます。
微かに何かが近づいてくる音がする。

そしてすぐに50分。
その角から飛び出してくる自転車。
私の待っていた、健太が乗っている自転車だ。


自転車は私の前で止まる。


「あー!」


健太は私を見るやいなや、声を挙げた。

視線の先は私の持っている通学用の鞄と一緒に持っていた小さな袋。
中味は体操着。


「忘れたぁ……」


がっくりと首を垂れて落ち込む健太。

家は今から引き返したら遅刻確定の距離。しかも体育は一時間目。


「最後の最後に……」

「やったねー。他のクラスの子に借りたら?」

「んんー、暑いし、それを理由に見学をする手もありだな」

「待て」


健太はお調子者でちょっと間が抜けてる。

こんな忘れ物も少なくないし、それに対して何もしないという選択をすることもよくある。
でも、何だかクラスの皆にも先生にも愛されているやつだと思う。


「ま、いいや。とりあえず乗りなよ」

「ん」


私は自転車の荷台にまたがった。

健太の肩に手をかけると、自転車がゆっくりと走り出す。

こんな風に私と健太が一緒に学校に通うようになったのは高一の夏。
ちょうど、今から一年前のことだった。

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