もう一度愛を聴かせて…
   ◇


安西産婦人科、医師、安西美和子――大きく看板に名前が入っている。

先生は女医さんなんだ、それを知ってわたしは少し安心した。


私服の中からなるべく大人に見えるものを選び、着てきたつもりだ。

保険証はどうせ使えないのだから、と思って、年齢は二十歳と書いた。そのときは、ほんの少しだけ手が震えて……。

受付で彼の名前を言うと、ちゃんと予約は入っていてどこかホッとしたのだった。


待合室には、若い、とはいえわたしより年上で二十代前半くらいの女の人と、三十歳くらいのお腹の大きな女の人がいた。

若い人はまだそれほどお腹は目立っていない。

でも、ピンクの親子手帳を持ってたから、妊婦さんなのだろう。


ジロジロ見られるんじゃないかと緊張してたけど、どちらの女性も、人のことにはあまり興味がないようだ。

わたしが病院に入ったときと待合室で座るときにチラッと見ただけで、あとはずっと手にした雑誌を読んでいた。


「麻生さん。麻生若菜さん。診察室にお入りください」


診察室に入ると看板に書かれてあったとおり、安西と名札のつけた女の先生が座っていた。受付で書いた用紙を見ながら、前回の生理日やサイクルなどを質問してくる。

そのとき、看護師さんが尿検査の結果を持って入ってきた。来院してすぐに指示され、提出したのだった。



「陽性ですね。妊娠は間違いないと思います。内診で状態を確認しましょうね」


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