秘密
進化

*その1*

目覚めはかなり良かった。

興奮が冷めなかったからか、なかなか寝付けなかったのに、、、たいして睡眠をとってないにも関わらずスッキリと目が覚めた。


遠足前の小学生じゃあるまいし。


ナナに話せばきっとそうバッサリ切って捨てられるだろう。

彼女はそんな女性だ。


「さて、気合いいれますかね。」


寝起きにタバコをふかしながらコーヒーを入れる。


タバコもやめなきゃだな。

匂いが彼女にうつってしまう。
あの柔らかな甘い香りがタバコに負けてしまったら勿体無いし。


着替えて車のキーを手に取りスマホを操作する。


昨日の夜のやりとり。


むず痒い感じがして、まるで初恋みたいだ、と思った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ほんとに会うの?」

朝、父と母が仕事に出た後。

非番だという兄と朝食をとっていた。
夜のメールのやり取りを知った圭が、井村と少し話がしたいと言うのだ。

「一応な。親代わりに顔見せといた方がいいだろ。」

「だってまだお試しなんだし…彼氏って訳じゃないし。申し訳ないんだもん。」


びっくりしてたみたいだしね。
「難関」って言ってたな。

「ナナ。試して人がわかるわけじゃないぞ。」

そうだけどさ…。圭、怖いんだよ。


カフェオレを流し込む。

「お願いだから尋問だけはやめてね。」
「職業柄しかたねぇだろ。」


さ、支度しよう。


水族館ならスカートでもいいよね。

春色のシフォンスカート。あれにしよっと。

おしゃれするなんてどれ位振り?
苦笑いしちゃいそう。

メイクはナチュラルで。
桜色のグロスで唇がふんわり色付いて。
マスカラを軽く塗っただけでパチパチまつ毛。

髪型、変えようかな。
少し伸びたから切ろうと思ってたけど、ストレートかけてみたらどうかな。


…まるで恋する乙女。


お試しとかいって、本気になっちゃうんじゃないかしら。

ふとそう思ったら。


怖い。怖い…怖い。


足元が急に不安になる。

床がパッと消えて奈落の底に落ちて行く。




「ナナ‼」

ハッとして意識が戻ると、圭の腕の中だった。
「あれ…?」
「また貧血か?大丈夫か、真っ青だぞ。」

…やっちゃった、久々だな。

貧血で倒れるなんて高校生以来だ。


恐怖で足がすくむ。
あの記憶がフラッシュバックする。


「ナナ、大丈夫だからな。俺がいる。」
圭の腕の中で震えるナナ。

ナナの記憶に無残にも残る恐怖。

兄と自分しか知らない、忌まわしい事実。



「大丈夫。貧血だから。なんだか疲れが出たのかな。」

あえて明るく振る舞う。

急展開な感じで足元を掬われた感じがした。


警鐘なのかも。


ーお前には恋する資格なんかない。ー


神様がそう言ってるのかも。




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