秘密
あのね。

*その1*

ホッとして社に戻るとうちの課は噂話で持ちきりだった。


俺がナナを泣かせて土下座して謝った、なんて話もチラホラ聞こえてきて笑えた。

何とでも言え。


「で、ホントのとこどうよ?」
営業の沢渡がわざわざデータ課まで真相確認しにくる始末。

こいつにだけは笑えない。

あの圭史さんの尋問はこいつのせいだから。

「うるせぇ。ってかほっとけよ。あ、お前そういやぁ圭史さんにチクったらしいな。」

「うぉ、圭とも仲良くなってんのかよ。あー、じゃ、ま、上手く行ったって話だな。賭けに負けちまったじゃねぇか。」


ぶつくさいいながら去って行く奴の後ろ姿を見てあれ、と思う。

賭けに負けちまった?



何を考えてるんだ、この会社。
誰をネタにトトカルチョしてるんだか。


ふと横をみると、ナナが嬉しそうに笑って山本と喋っている。


それだけで幸せを感じる。
ナナが笑顔でいてくれる。
それが何よりも愛おしく守りたいモノになる。

大切にしたい。


だからこそ向き合わなければ。


思い立って、圭史さんにメールを打つ。


件名:ありがとうございました。
本文:さっきはありがとうございました。
ホッとしたら、ふいにずっと抱えていた疑問をあなたにぶつけたくなりました。

ナナが抱えている闇は何ですか?

俺には教えられない事ですか?

そうメールを送信する。

あの人は頭がいい人だから、すぐに理解してくれる。


その言葉の通り、すぐに返信がきた。

件名:ナナには聞いてないのか?
本文:ナナが言いたくなけりゃ俺からは言えない。


どうするべきか。


ナナに直接聞くべきか。

圭史さんにだけ、聞くべきか。


それとも2人に同時に聞くべきか。


だが、ナナが言いたくない、話したくない、と考えていたらどうする。

何も聞かない、知らないままでナナを守る事が出来るんだろうか。

このままでは先に進む事すら叶わない。


それにナナに好きだと言われた訳じゃない。


さぁ。どう勝負を仕掛けようか。

賭けに出るか。


件名:今日。
本文:ナナを俺のモノにしていいですか。


シスコンの圭史さんに先ず仕掛けるとする。

あの人を味方に出来れば怖いものは無い。
数分後。
返事がきた。

件名:
本文:あいつを呪縛から解き放ってくれ。幸せにしてやってくれ。女として生まれてきたのにこのままじゃ生地獄だ。


意味がイマイチわからない。

だがOKってことだな。

そうなったら善は急げだ。




終業時刻前にナナへメールを送った。

件名:この後。
本文:話がある。地下駐車場まで降りて。車で来てるからそこで待ち合わせしよう。



すると数秒で返事がくる。

ひとこと、はい、と。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


話がある。


きっと今日のこと。
それと…あのこと。

多分圭が少し話したんじゃないかと思う。

でないとわからない話だし。

責める気はない。
ただ、ちゃんと話せるか、答えられるか、それが不安だった。

それと、話し終わった時にまだ好きでいてくれるのかどうか。
話を聞いたら、井村が自分を嫌うんじゃないか。


これが一番不安。


好き、って言えるかな。
言って迷惑にならないかな。

こんな女じゃ嫌になるかな。

でも。

前に進みたい。
ただその一心だった。
井村を失いたくない。
この気持ちに気付いたから、もう嫌だ。


荷物をまとめて立ち上がる。

すると彩がクスッと笑った。
「何よ?」
「今から課長とデート?なんかナナ可愛い。」
「もう!からかわないで!」


デート、じゃないな。

決戦。

むかし何か歌があったな。金曜日が決戦だとかなんか。

そんな気分。

全てさらけ出して、嫌われたらそれまで。
ううん、諦めたくない。
好きなんだもん。

あれ以来、初めて心が苦しくなるくらい、好きになった人なんだもん。



まっすぐ前を見て話して。

それから考えよう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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