秘密

嫉妬

＊その1＊

社内であたしと翔太さんの関係を知らない人はあまり居ない。


目の前にいるこいつはきっと例外なんだ。

「だぁかぁらぁ、メシ行きましょうって！歓迎会！ね！」


高木浩輔。


いい加減、理解してくれないかな…。

終業時刻になり、パソコンを終了させ荷物をカバンにいれていたらまたまた現れた彼に誘われていた。

「だから、ダメ。彼に怒られるから。」

何回目かの同じセリフを言った時だった。

「ナナ、帰るぞ。」


物凄いテンションの低い声で名前を呼ばれ、振り向くと。

「あ…翔太さん。」

明らかに不機嫌。高木くんを睨む目はすわってる。

「え？え？どゆこと？早瀬さんの彼氏って」
「俺の事だ。文句あるか？」


すごい勢いで首を横に振る。
あらら。ようやく理解してくれたのね。

「行くぞ、ナナ。」

強く腕を引かれ連れ攫われる。

「翔太さん、あの」

「うるさい。」

あぁぁぁ、こうなるとヤキモチやきの翔太さんは…。

「帰ってから覚えとけよ。たっぷりお仕置きして身体に教え込んでやるから。」
小さな声で囁く。

…やっぱり…。


あたし、悪くないと思うんだけど…。


「おぅ、井村。珍しいなっていうか姫君のお迎えか。お、じゃあ早瀬の歓迎会するか！」

思いついた、とばかりに通り過ぎ際に翔太さんの肩をポン、と叩く沢渡先輩。


「は？今日は予定があるんだ、またにしてくれ。」

…ないないない、予定日なんてなかったはず。


「お前さぁ、嫉妬丸出しの顔してたらナナに嫌われるぞ。」
「いや、マジで予定あるんだよ。頼むから邪魔してくれるな。なんで俺が定時で上がったか、考えろよ。」

…そういえば。


大抵残業する翔太さんが、定時でここに来た。
いつもと違う。

「行くぞ。」

半ば強引とも取れる態度でナナの手を掴み会社を出る。


「翔太さん、何かあるの、今日いつもと違う。」

地下駐車場で車に乗り込み黙ったままの翔太に話しかける。

「ちょっとな。黙ってついてこい。」


しかめっ面が少しだけ柔らかな表情に変わる。


「しかし、あの高木って奴。ムカつくほどにナナを狙ってるな。牽制するにはちょうどいいタイミングだったな。」

運転しながらニヤリ、と笑う。

「狙ってなんかないわよ、どの子に対してもああなんだから。」

全く、人をおちょくってるのか、と突っ込みたくなる人なんだよね、高木くんって。

「歓迎会の件はそのうちな。今日はどうしても外せない約束なんだ。」


前を見つめたまま、そう話す翔太を見て何かあるんだな、でもまだ秘密なんだな、と納得するしかないナナだった。