満月の人魚
瑠璃は長い髪を風に靡かさせながら、今朝見た夢の事を思い出していた。

今は美術の時間である。

今日はスケッチの授業で、校内どこでも自由な場所を画用紙に描いてこれば良い。

「適当に木でも書いてこようぜ〜」という考えの者が多く、瑠璃がいるグラウンドから校舎が見渡せるこの場所は瑠璃以外誰もいなかった。

(お母さんの夢なんて……いつ以来かしら。)

幼い頃亡くした両親の事は記憶が朧げで、よく覚えていない。

(お母さんが最後に言った言葉…よく聞き取れなかった。)

目覚めた後、無性に寂しくて涙を流していたのに、時間が経つと手ですくった砂のようにサラサラと音を立てて記憶からこぼれていってしまうような、そんな夢だった。
< 25 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop