ロリポップ
 6時から約束がある、という恩田君とはカフェを出て別れることにした。

 送ってくれる駅までの道を、2人で歩きながら瑛太の話や、実家に帰った話をしながら、頭の中はこれからあの彼女と会うのかな・・・と思ってしまう。

 聞く勇気が無いくせに、気にだけはしてる自分が歯がゆい。

「逢沢さん、これ、あげます。何だか疲れてるみたいだから。そんな時は甘いものでも食べて、元気出してください。あ、さっき、チョコレートケーキも食べてましたね」


 笑って差し出されたのは、ロリポップ。

 小さい頃にたべた棒つきキャンディだった。


「ロリポップ?」


「僕、これ、好きなんですよね。昨日も大量に買って怒られました」


 イチゴミルク味のロリポップを私に渡して、少し恥ずかしそうに笑う恩田君は、抱きしめたい衝動に駆られるくらいキュンとした。

 イチゴミルクのロリポップを握り締める私の指先に力が入る。
  
 幸せを願うなんていっておいて、嫉妬するくらいなら願わなきゃいいのに。

 醜いもう一人の自分が囁く。

 分かってるわよ、そんなの。

 分かってるから、願うのよ。

 好きな人が幸せでいてくれなきゃ、幸せを掴めなかった方は惨め過ぎるじゃない・・・・。


 電車のドアが閉まって、静かに進み始める中、小さくなる恩田君を見つめながらロリポップを開く。

 白とピンクのマーブルのイチゴミルク。

 包装を剥がした途端に、甘い匂いがあたりに広がる。
 そっとその甘い匂いごと口に入れると、いかにも人工的な甘さが口に広がっていった。

 ロリポップ。

 こんなにも甘いのに、苦いと思うのはどうしてなんだろう。

 口の中に広がる甘さと同じように広がる苦い感情。

 それは止められない。

 溶けて口の中に消えていく甘さとは別に、私の心には苦いロリポップ。

 
 恩田君・・・ロリポップ、私には効果なかったよ・・・・。

 
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