砂漠の舟―狂王の花嫁―(番外編)
我が子が可愛くないはずがない。だが、この世で何より大切なリーンの心をすべて奪われ、表立って奪い返すこともできず、やり場のない感情を持て余していた。


「陛下、男はただ種を蒔くだけです。何ヶ月も腹に抱え、命がけで産み落とす母親に敵うはずもありません」


そうだ……『めでたい、めでたい』と言われ、しだいに何がめでたいのかわからなくなっている自分がいた。 

我が子とはいえ、数回抱いた程度ではどうにもピンと来ない。

父親らしくと思えば思うほど、リーンのように泣きやまぬ赤ん坊に笑顔を向けることもできず……。

だが、このままでは、自分ひとり除け者にされた気分だった。


王が子供の世話をする必要などない。

そのためにハーレムがあり、多くの女たちがいる。正妃が子供の世話にかまけて王を蔑ろにするというなら、他に妃を娶ればいい。

サクルは自分の考え方は正しいと思いながらも、それでも心と身体はリーンを求め……。

どこまでいっても堂々巡りだった。


「まずはお戻りになり、新しい妃を迎えることなど取りやめになさい。そして、ふたりで過ごすことは諦め、四人で過ごすことを申し入れてはいかがでしょう? お子様は二の次で、正妃様をお助けするだけのつもりでよろしいと思いますよ。お子様がたも、永遠に泣くだけの赤ん坊ではいませんので」

「おまえは、私が間違っていると言うのか?」

「いえ、陛下ご自身のお気持ちを代弁しただけでございます」


悔しいながらもカリム・アリーの言葉は正しかった。

サクルは無駄な足掻きを諦め、リーンに謝罪しようと考え、ハーレムに引き帰した。


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