アンジェリヤ

「大丈夫だよ、きっと大丈夫」
 自分に言い聞かせるように、繰り返した。
 それから何年たっただろう。高校を卒業し、短大を卒業し、普通の会社に就職した。
のどが渇いたので、いつもの喫茶店に寄ろうと先を急ぐ。すると、一枚のポスターが視線の先に止まった。
 ――沢渡順写真展
 その単語は、綾が足を止めるには十分なものだった。死んだはずの彼が、写真展?
ポスターの写真は、まだ一度も綾の見たことないものだった、それも、今行こうとしていた喫茶店の隣の展示場でやるらしい。プロフィールには、一度事故に会い、一時何年も意識がかえらなかったと書いてあった。つまりは、あの時弟さんについていた生霊は本人なわけだ。彼は、あきらめてはいたものの、リハビリなどハンディを乗り越えて夢をかなえることができたのだろう。プロフィールの上に掲示された写真は、間違いなく彼の顔で、それはしっかりとした大人のものへと変化していた。
(いくしか、ないでしょ)

 手には、アンジェリヤを持って。
 


 

< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

たとえこの声が誰にも届かないものだとしても

総文字数/4,129

詩・短歌・俳句・川柳15ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
僕は叫ぶよ 誰かの耳にこの声が届くのを信じて
君の声が聴こえる

総文字数/2,751

ファンタジー7ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
家族を失った。 これで見事に独りぼっちだ。 そんな和葉の元に人工人間「ひいや」がとどいけられる。 意図がわからぬまま一緒に暮らすことになるが…? 12月5日~
僕たちは回り続ける

総文字数/27,318

その他70ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
小さなころの約束。 自分の墓を造っていると言った少年との、見送るという約束は未だ果たされてない。 そんな梓の前にその少年が現れた! しかし彼は約束を覚えてなくて……。 12月12日~

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop