シークレット・ガーデン


三列目のシートを倒した荷室には、釣竿の入ったケースが2本とクーラーボックス、取っ手にロープを巻き付けたバケツなどが置かれていた。


それを見た真彩は思い出す。



司と付き合っていた頃、真彩も何度か司に付き合い、一緒に釣りに行った。

…彼のバイクの後ろに乗って。


司は真彩の分まで釣竿を用意してくれたので、真彩も釣り人の真似事をした。


魚を触るのが大の苦手の真彩は、自分の竿に魚がかかるたびに大騒ぎして、鱗の光る魚を気持ち悪がった。



ーー俺ら、海から『んぬぅつ』もらってるんだぞ…


司は真彩の竿の針を魚から外しながら、ちょっとムッとする。



ーーんぬぅつって、何?


真彩は、大きな目をさらに見開いて訊いた。


司は『んぬぅつ』とは、宮古島の方言で「命」の意味だと言った。





真彩は、車窓から初夏の街の景色に目をやる。


建ち並ぶマンション、商店、オフィスビル、街路樹。


光俊とも車で何度も通ったことのある道。
司とは初めてだ。



夕べは、眠れそうもない、と思ったのに、いつの間にか眠りに落ちていた。







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