シークレット・ガーデン


外へ出ると、夜気が心地よかった。

防風林の松がざわめく。


駐車場までの砂利道を、小石を蹴るようにして歩いた。


海が近いせいで、耳をすますと波が岩に打ち砕ける音が聞こえた。


「どうぞ」

司が素早く、車の助手席のドアを開けてくれ、真彩は「ありがとう」と笑顔で乗り込んだ。


まるで、恋人だった時代にタイムスリップしたような感覚になる。


「寒くない?」


司が訊き、真彩が首を振った。


この時期にしては暖かくなる、と朝のウエザーニュースで言っていたけれど、本当だ……


真彩は思ったけれど、口にはしなかった。



今は言葉は重要ではないーー必要最低限の会話で満ち足りる時間。


むしろ、言葉がこの空気を壊してしまう。


ここまでわずか30分のドライブだった。
帰りは、『Seaside Tower Hotel&SPA小田原』の最寄り駅で別れる。


道が混んでいなければ、所要時間は40分くらいだ。


そこから真彩は電車に乗る。



………それからは、いつまた逢えるか分からない。


それこそ、今回みたいに1年も立たないうちに、偶然の再会をするかもしれないし、もう二度と逢えない可能性だってある。





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