beautiful love ★ 俺様boyと天然girl
「はや……」
「ばか、喋んな」
トクン――。
早手……なんで?
さっきまで木南さんと一緒に外でビラを配ってたじゃん。
女の子が早手の周りに集まったら、木南さんが当たり前みたいに間に入って、自分の彼氏を取られたくないみたいに早手を連れていってた。
あんなに恋人みたいだったのに。
「……立てるか?」
早手の声がすぐ近くから聞こえて、私は俯いたままスカートをぎゅっと握った。
「……ほっといて」
自分でも可愛くない言い方だと思う。
でも今は、早手にだけはこんなところを見られたくなかった。
「…………」
早手は何も言わない。
怒ったのかなと思って少しだけ顔を上げたけど、早手は怒っているわけでもなく、ただ私を見ながら少し眉を寄せていた。
「……立てんの?」
「…………」
立てない。
お腹も痛いし、立ち上がったらスカートの後ろだって見えてしまう。
それでも、早手には頼りたくなかった。
「……大丈夫だから」
「大丈夫じゃねぇだろ」
「いいから……ほっといてよ」
早手と話すと、また苦しくなる。
さっきだって木南さんと一緒にいるところを見ただけで、あんなに胸が痛くなった。
もう関わらないでって言ったのは、私なのに。
「…………」
早手は少し黙ったあと、私にかけられている上着に視線を落とした。
宗太が、さっき私を隠すためにかけてくれたもの。
「…………」
早手が何も言わず、その上着を取る。
「え……?」
そのまま宗太の方へ差し出した。
「これ」
「あ……うん」
宗太が少し驚きながら自分の上着を受け取る。
早手は宗太には何も言わず、今度は自分が着ていた上着を脱いだ。
「早手……?」
パサッ――。
私の肩から、早手の上着がかけられる。
さっきまで早手が着ていたから、まだ少し温かかった。
「これ着とけ」
「……いいって」
「いいから」
早手は私の肩にかけた上着を、そのまま腰の方までしっかり下ろして、後ろが見えないように隠してくれた。
何で宗太の上着じゃダメだったんだろう。
そんなこと、聞けるわけもないけど。
「……早手、もういいから」
「…………」
「ほっといてって言ってるじゃん……」
これ以上、優しくしないでほしい。
せっかく早手がいなくても平気になろうとしてたのに。
慎と一緒にいるのが楽しくて、手を繋いだことだって嬉しくて、少しずつ前に進めてる気がしてたのに。
「……悪い」
早手が小さく呟く。
「え……?」
「それは、今は無理」
次の瞬間、背中と膝の裏に早手の腕が回って、身体がふわっと浮いた。
「……っ!?」
「早手……っ!」
「暴れんな」
「ちょっと、下ろして……!」
「無理」
「歩けるから……!」
「立てなかっただろ」
何も言い返せない。
お腹はまだ痛いし、身体にも力が入らなかった。
「悪い、保健室行くわ」
早手が周りに向かって言うと、優希が少し驚いた顔をしてからすぐに頷いた。
「う、うん。お願い」
「優希……!」
「水乃、今は行った方がいいよ」
分かってる。
分かってるけど、何週間も早手とはこんなに近くにいなかった。
話すこともなくなって、一緒に帰ることもなくなって、朝だってもう隣にはいなくて。
なのに今は、少し顔を上げれば早手の顔がすぐそこにある。
「……下ろして」
「保健室着いたらな」
「自分で歩く……」
「無理すんな」
淡々と返して、早手はそのまま歩き出す。
「神崎、すげー」
「そこまでする?」
周りから聞こえてくる声が恥ずかしくて、私は早手の胸元に顔を伏せた。
嫌なのに、恥ずかしくて仕方ないのに。
久しぶりの早手の腕の中は、悔しいくらい安心した。
「何カッコつけてんだよ」
どこかから、笑うような声が聞こえた。
「わざわざ抱っこして保健室とか、恥ずかしくね?」
早手の足が止まる。
「…………」
「早手……いいよ」
お願いだから、もう何も言わないで。
これ以上目立ちたくなくて小さく言ったのに、早手は私を下ろさなかった。
私を抱いたまま、声がした方へゆっくり顔を向ける。
「……お前、大事な女いねぇの?」
「は?」
早手の声は怒っているというより、驚くくらい冷静だった。
「好きな女守んのに、恥ずかしいとか関係ねぇだろ」
ドクン――。
好きな女。
その言葉だけが、やけにはっきりと耳に残った。
「いつかお前にも、守りたいって思うくらい大事なやつができたら」
早手は少しだけ間を空けて。
「……分かるんじゃねぇの」
胸が、苦しいくらい大きく鳴った。
好きな女。
大事なやつ。
それって、私のこと……?
「……早手」
思わず名前を呼ぶと、早手がほんの少しだけ私を見る。
「何」
「…………」
聞きたい。
今言った好きな女って、私のことなのって。
でも、そんなこと聞けるわけがなかった。
「……何でもない」
「そ」
早手はそれ以上何も聞かず、また前を向いて私を抱いたまま歩き出す。
慎と手を繋いだ時、あんなにドキドキした。
もう少しこのままでいたいって、本当に思った。
なのに今度は、早手のたった一言で胸の中がぐちゃぐちゃになる。
もう関わらないでって言ったのは私なのに。
気づけば私は、早手の上着をぎゅっと掴んでいた。
……ずるいよ。
早手。「