beautiful love ★ 俺様boyと天然girl
「今日は……ひゃっ!!」

突然、後ろから身体を引かれた。

そのまま背中が早手の胸にぶつかって、お腹の前に腕が回る。

「…………っ」

え。

何……!?

『水乃? どうした?』

スマホから慎の声が聞こえて、ハッとする。

「な、なんでもない……!」

ダメ。

慎に気づかれたら、絶対変に思われる。

『ほんとに?』

「うん……ちょっと、びっくりしただけ」

できるだけ普通に答えながら、早手の腕をそっと掴む。

離してって伝えたくて少し力を入れてみるけど、早手は全然離してくれない。

それどころか。

私を抱きしめたまま、ゆっくり顔を寄せてきた。

「…………っ」

耳元に、早手の気配を感じる。

近すぎて、身体が動かなくなる。

『じゃあ、今日の夜――』

「え……今日の夜?」

「…………」

答えようとしたのに。

早手が近すぎて、声が出ない。

『水乃?』

「…………」

返事しなきゃ。

何でもないみたいに、慎と話さなきゃ。

そう思っているのに。

何も言えなくなった私の手元へ、早手がゆっくり手を伸ばしてくる。

そのまま。

私の手からスマホをそっと取った。

「…………っ」

そして画面を一度だけ見て。

プツッ――。

「……え」

電話が切れた。

「ちょ、早手……!」

やっと声を出して振り返ろうとする。

だけど、お腹の前に回った早手の腕はまだ離れない。

「何してるの……!? まだ慎と話してたのに!」

「知ってる」

「だったら、何で勝手に切るの……!」

「…………」

早手は何も答えない。

私のスマホを近くの机に置くと、そのまままた私を強く抱き寄せた。

「早手……離して」

「……嫌」

「え……」

「今は無理」

低い声が。

すぐ後ろから聞こえる。

「何なの……急に」

「…………」

「ずっと何も話してなかったのに、急にこんなことして……」

何週間も。

早手は私に話しかけなかった。

私が慎と一緒に学校へ来ても。

一緒に帰っても。

何も言わなかった。

なのに。

今はこんなに強く、私を抱きしめてる。

「……慎」

「え?」

「今日の夜、お前ん家来んの?」

「…………」

やっぱり。

聞いてたんだ。

「まだ分かんないよ。慎が心配してくれて――」

「嫌」

「……え?」

私の言葉を遮るみたいに。

早手が言った。

「慎がお前ん家行くの、嫌」

「…………」

あまりにも真っ直ぐで。

何も言えなくなる。

「……何で」

「分かんねぇの?」

「分かんないよ」

だって。

分かるわけない。

「早手には……関係ないじゃん」

口にした瞬間。

早手の腕に力が入った。

「…………」

「私が慎と会っても、誰と一緒にいても……もう早手には関係ないでしょ?」

自分で言いながら。

胸が痛くなる。

でも。

そう言ったのは、私だ。

関わらないで。

放っておいてって。

だから早手は。

本当に何も言わなくなった。

「……分かってる」

すぐ後ろから。

低い声が返ってくる。

「分かってるよ。そんなの」

「じゃあ――」

「分かってるから、今まで何も言わなかったんだろ」

「…………」

早手の腕は。

まだ私のお腹の前に回ったまま。

離してって言ったのに。

少しも離れる気配がない。

それどころか。

話しているうちに、抱きしめる腕が少しずつ強くなっていく。

「お前が慎と学校来てても、一緒に帰ってても……何も言わなかった」

「…………」

「今日だって、2人で文化祭回ってんの見てた」

ドクン――。

見てたんだ。

「楽しそうに笑ってんのも見た」

「早手……」

耳元に近いところから聞こえる声が。

だんだん苦しそうになっていく。

「……お前が慎と一緒にいて、笑ったりしてるの見ると」

「…………」

一度。

早手の言葉が止まった。

その代わりみたいに。

私を抱きしめる腕に、ぎゅっと力が入る。

「我慢できない」

ドクン――。

「朝も一緒に来て、帰りも一緒で……今日だって2人でずっと一緒にいて」

「…………」

「俺がずっといた場所に、今は慎がいて」

早手の声が掠れる。

顔は見えないのに、それだけでどんな顔をしているのか気になってしまう。

「何も言わないって決めてんのに……気づいたらずっと見てる」

「早手……」

「慎がお前の名前呼ぶのも、お前が慎に笑うのも……全部嫌なんだよ」

「…………っ」

背中から伝わる体温。

耳元に落ちてくる声。

何週間も。

こんなに近くにいなかったのに。

「……マジで無理」

早手が。

私をさらに強く抱き寄せた。

「嫉妬で狂いそうになるんだよっ……!」

「…………っ」

胸が。

大きく跳ねた。

早手が。

嫉妬してる。

いつもなら。

そんなこと絶対に認めない早手が。

「慎の方に行きそうなお前見てたら……ほんとにおかしくなりそうになる」

「早手……」

早手の腕が。

また私を強く抱きしめる。

「……嫌なんだよ」

「…………」

「お前が慎のこと好きになるのも」

すぐ後ろで。

早手が一瞬、言葉を詰まらせた。

「慎の彼女になるのも」

「…………っ」

そして。

私を抱きしめたまま、低い声で言った。

「……絶対、嫌」

その言葉に。

胸が苦しくなる。

何で。

そんなこと言うの。

「……私が誰を頼ろうが……」

「…………」

「誰を好きになろうが……もう早手には関係ないことじゃん……!」

言いながら。

自分の胸まで痛くなった。

だって。

早手には木南さんがいる。

私とは何週間も話さなかったのに。

木南さんとは一緒にいて、普通に話して。

私だって。

もう早く次の恋に進みたい。

ずっと早手だけを見て。

そのたびに苦しくなるのは、もう嫌だから。

「慎は……私がいいって言ってくれる」

早手の腕の中で。

ゆっくりと言葉を続ける。

「そばにいたいって言ってくれた……」

「…………」

「私だって慎の気持ちに……答えてあげたい……」

『まだ早手のこと好きでもいい』

『それでもいいから』

『俺のことも考えてほしい』

早手を引きずってる私に。

慎はずっと優しい言葉をかけてくれた。

無理に忘れろなんて言わないで。

それでもいいって言って、そばにいてくれた。

一緒にいると楽しかった。

今日だって、慎と文化祭を回っている間は素直に笑えていた。

私だって。

そんなふうに真摯に向き合ってくれる慎に。

ちゃんと。

前向きに気持ちを返したい。

「だから私も……慎のこと、ちゃんと考えたいの」

「…………」

早手の腕が。

一瞬だけ固まった。

「……なんだよ……ソレ」

すぐ後ろから聞こえた声が。

さっきまでより、ずっと低くなる。

「ふざけんな……」

「…………っ」

そして。

私を抱きしめる腕に、また強く力が入った。

「認めねーよ……」

「早手……」

「ずっと一緒にいるって……」

耳元で。

早手の声が震える。

「一生守るって……約束しただろ……」

トクン――。

その言葉を聞いた瞬間。

ずっと昔の記憶が、頭の中に蘇った。

『――俺がずっと一緒にいてやる』

『水乃をいじめるやつはみんな俺が、こてんぱんにしてやるから!』

『だから……俺がずっと水乃を守るから……』

「…………っ」

なんで。

今ここで。

あの時の話……出すの……?

「……ガキん頃の遊びの約束とか」

早手の声が。

すぐ後ろから聞こえる。

「お前は思ってるんだろうけど……」

「…………」

「……俺はあの時の約束、忘れたことないし」

早手の腕が。

私を離さない。

「気持ちは変わらない……」

「早手……」

胸が。

苦しい。

忘れてたわけじゃない。

私だって覚えてる。

でも。

あの頃と今は違う。

そう言いたいのに。

言葉が出てこなかった。

「もしお前が、あの時の約束忘れて……」

「…………」

「慎を好きになったとしても……」

早手が。

私を抱きしめたまま言う。

「もっかい俺に振り向かせてやる……」

「…………っ」

「どんなに時間がかかっても……」

耳元に落ちてくる声に。

胸が何度も大きく鳴る。

「意地でも……」

一度。

早手が言葉を止める。

そして。

「奪ってやる……」

「…………っ!」

早手…………っ。
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