beautiful love ★ 俺様boyと天然girl
水乃Side

「……うん」

そう答えた私を、木南さんは黙ったまま見ていた。

「…………」

「…………」

何か言ってほしいような。

でも、何も言わないでほしいような。

そんな気持ちのまま視線を落としていると、木南さんが小さく息を吐いた。

「……水乃ちゃん」

「ん?」

「本当に……いいの?」

「……え?」

「私が、これからも早手を頼っても」

「…………」

木南さんの声は、さっきより少し小さかった。

「だって私……」

一度、言葉が止まる。

「早手のこと、まだ好きだよ」

「…………」

胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

分かってた。

分かってたはずなのに。

木南さんの口から改めて聞くと、やっぱり苦しい。

「振られたし、早手が私のこと好きじゃないのも分かってる」

「…………」

「水乃ちゃんのことが好きなのも……分かってるよ」

早手。

名前を呼びたくなった。

昨日だって。

私と一緒に帰りたいって言ってくれた。

避けてるだろって、気づいてくれた。

そんな早手の顔が浮かんで、胸が痛くなる。

「でもね」

木南さんが、ゆっくり続ける。

「それでも私、早手と一緒にいたいって思ってる」

「…………」

「恋人になれなくてもいいとか……今はまだ、そこまで綺麗に割り切れてないけど」

木南さんは少し困ったように笑った。

「早手と話したいし、何かあった時は頼りたい」

「……うん」

「早手が近くにいてくれたら、安心するから」

その言葉が、胸の奥に重く残った。

「だから……」

木南さんが私を見る。

「水乃ちゃんが本当にいいって言ってくれるなら」

「…………」

「私、これからも早手のそばにいたい」

「…………」

すぐには答えられなかった。

嫌だ。

本当は。

そんなの、嫌に決まってる。

早手の隣に木南さんがいるのも。

木南さんが早手に連絡するのも。

早手を頼るのも。

そのたびに私は、きっと気になってしまう。

でも。

――早手がいてくれて、すごく心強かった。

――やっぱり早手と話すと、安心するんだ。

さっき聞いた言葉が、頭から離れない。

「……いいよ」

気づいたら、そう答えていた。

木南さんの目が少し大きくなる。

「……本当に?」

「うん」

「でも……早手、水乃ちゃんのこと――」

「私たち、もう別れてるから」

自分に言い聞かせるみたいに、もう一度口にする。

「だから、私のことは気にしなくていいよ」

「…………」

「木南さんが早手と一緒にいたいなら……一緒にいていいと思う」

言ってしまった。

胸が苦しい。

今すぐ、やっぱり嫌だって言いたくなる。

それでも私は笑った。

「早手も、木南さんが本当に困ってたら放っておけないと思うし」

「……うん」

「だから……これからも頼ってあげて」

「…………」

木南さんはしばらく私を見ていた。

「……ありがとう」

小さな声だった。

「私……水乃ちゃんに嫌われてると思ってた」

「え?」

「だって私、いっぱい嫌なことしたから」

「…………」

「早手のことも……諦められてないし」

木南さんは少しだけ俯いた。

「だから、こんなこと言ってもらえると思ってなかった」

「……大丈夫だよ」

また。

大丈夫って言った。

全然、大丈夫じゃないくせに。

「私も……」

「え?」

「ちゃんと前に進もうって思ってるから」

口にした瞬間。

慎の顔が浮かんだ。

――まだ、考えてくれてる?

昨日、そう聞いてくれた慎。

私は。

――ちゃんと……考える。

そう答えた。

「…………」

早手から離れるって決めるなら。

私も、いつまでも同じ場所に立ってちゃいけない。

「そっか」

木南さんが、少しだけ笑った。

「……ありがとう、水乃ちゃん」

「うん」

私も笑い返した。

でも。

胸の奥ではずっと。

昨日の早手の声が消えてくれなかった。

――俺は一緒にいたいんだけど。

あの時。

本当は私も。

同じことを言いたかった。
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