beautiful love ★ 俺様boyと天然girl
388 ― 早手Side
早手Side
「それでね……」
木南が少し嬉しそうに笑った。
俺は隣を歩きながら、黙ってその続きを待っていた。
水乃と木南が話した。
しかも、俺のことを。
あの日、体育館で水乃が何か言いかけていたことを思い出すと、どうしても気になった。
「水乃ちゃん、すごく優しかったんだ」
「……うん」
「私が家のことで悩んでたことも、ちゃんと聞いてくれて。早手がいてくれて心強かったって話もしたの」
「…………」
「私ね、あの時ほんとに不安だったから。早手が話聞いてくれるだけで、すごく安心できたんだ」
「……そっか」
「うん。だから、水乃ちゃんにもちゃんと伝えたかったの」
木南は前を向いたまま、少しだけ笑った。
あの件があってから、木南は以前より自分のことを話すようになった。
家のことも、今どうしているのかも。
俺に話したところで何か解決できるわけじゃないけど、少なくとも話を聞くくらいはできる。
だから最近は、木南が相談してきても以前みたいにすぐ突き放すことはなくなった。
ただ、それだけだ。
「それでね、私、水乃ちゃんにも言ったんだ」
「……何を?」
「これからも早手のこと頼りたいって。早手が近くにいてくれると安心するし、できればこれからも一緒にいたいって」
「…………」
木南が少し照れたように笑う。
「私、まだ早手のこと好きだから」
「……うん」
それは知ってる。
何度も聞いてるし、俺だって自分の気持ちは伝えてある。
木南が俺を好きなのと、俺が木南の相談に乗ることは別だ。
俺が好きなのは、今も水乃だけだから。
「そしたらね、水乃ちゃん、これからも早手のこと頼っていいって言ってくれたの」
「…………」
「早手はちゃんと話聞いてくれる人だから、私が頼りたいなら遠慮しなくていいと思うって」
「……水乃が?」
「うん!」
木南は嬉しそうに頷いた。
「私、水乃ちゃんにどう思われるかなって、ちょっと心配だったんだ。だって、早手と水乃ちゃんってずっと一緒だったでしょ?」
「…………」
「でも、水乃ちゃん、全然嫌な顔しなくて。むしろ、私のこと心配してくれたの」
木南は少しだけ声を弾ませる。
「それでね、私が早手と一緒にいたいなら、これからも一緒にいていいって言ってくれたんだ」
「…………」
一瞬。
何を言われたのか分からなかった。
「…………は?」
「だから、早手と一緒にいたいなら一緒にいていいって。水乃ちゃんに遠慮しなくていいって言ってくれたの」
「…………」
……水乃が?
俺と木南が。
一緒にいていい?
木南は俺の反応に気づいていないのか、嬉しそうに話を続けた。
「私、それ聞いてすごく嬉しかったんだ。今までは早手に近づくのも、水乃ちゃんに悪いかなって思うことがあったから」
「…………」
「でも、水乃ちゃんも早手とはもう別れてるし、私に気を遣わなくていいって」
……何だよ、それ。
別れてる。
そんなこと、言われなくても分かってる。
俺と水乃は、もう付き合ってない。
でも。
俺がまだ水乃を好きなことは、何回も伝えてある。
木南だって知ってる。
なのに。
水乃は、そんなこと言ったのかよ。
「それにね、水乃ちゃん、自分もちゃんと前に進もうと思ってるって言ってた」
「…………」
前に。
進む。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中にあの日の水乃の声が響いた。
『ちゃんと前に進まなきゃって……思ってる』
「…………」
木南は少しだけ笑った。
「だから、私ももう少し頑張ってみようかなって思ったの。早手にもっと私のこと見てもらえるように」
「…………」
……待てよ。
水乃。
お前。
「早手?」
「…………」
「どうしたの?」
「……それ、本当に水乃が言ったの?」
「うん。そうだよ」
木南は不思議そうに俺を見る。
「水乃ちゃん、私が早手と一緒にいたいなら一緒にいていいって、ちゃんと言ってくれたよ」
「…………」
思わず足が止まった。
木南も少し遅れて立ち止まる。
「……早手?」
何も答えられなかった。
頭の中で、今までのことが次々と浮かんでくる。
水乃が最近、俺から離れるようになったこと。
俺が話しかけても、すぐに目を逸らすこと。
慎とは楽しそうに笑っていること。
あの3連休。
俺があんだけ行ってほしくないって言ったのに、慎とデートに行ったこと。
そして。
『……いままでのこと、忘れたい』
『早手とのこと、忘れたい……』
「…………」
あの日。
水乃はそう言った。
俺の目の前で。
今にも泣きそうな顔をしながら。
それでも、忘れたいって。
だから俺は、それ以上何も言えなかった。
本当は、忘れてほしくなんかなかった。
俺とのことを全部忘れて、慎の方へ行くなんて、絶対嫌だった。
でも、あいつが前に進みたいって言うなら。
俺があの場で何を言っても、困らせるだけだと思ったから。
……なのに。
その前に。
木南に、そんなこと言ってたのかよ。
「……早手、大丈夫?」
木南が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「……あぁ」
「何か、怒ってる?」
「…………」
怒ってる。
いや。
まだ、自分でもよく分からなかった。
ただ、胸の奥が重かった。
水乃が俺を忘れたいって言ったことも。
慎とデートしたことも。
最近、俺を避けるようになったことも。
全部。
木南の話を聞いて、ようやく繋がった気がした。
……だからか。
だから、あいつ。
俺から離れようとしてたのか。
木南が俺を必要としてるから。
木南が俺と一緒にいたいって言ってるから。
だから、自分は俺から離れて。
慎の方へ行こうとしてたの?
「…………」
……何だよ、それ。
俺の気持ちは?
俺が何回、お前のこと好きだって言ったと思ってんの。
一緒にいたいって。
諦めねぇって。
何回も伝えたよな。
水乃だって、知ってるはずだろ。
「……早手?」
「…………」
木南の声に、ゆっくり顔を上げる。
「……俺さ」
「うん?」
「水乃が好きだって、お前にも言ったよな」
「…………」
木南の表情が少しだけ変わった。
「……うん」
「今も変わってねぇから」
「…………」
「それだけは、分かってて」
木南は少し寂しそうに笑った。
「……分かってるよ」
「…………」
「でも、私も早手のこと好きだから。簡単には諦められない」
「……うん」
「だから、もう少しだけ頑張らせて」
木南が俺を見上げる。
俺は何も言えなかった。
木南が俺を好きなのは分かる。
それでも、俺の気持ちは変わらない。
水乃が好きだ。
今も。
ずっと。
なのに。
その水乃が。
俺の気持ちを知っていながら、木南に俺と一緒にいていいって言った。
「…………」
何で。
何で、そんなこと言えんだよ。
俺が誰といたいのか。
誰が好きなのか。
分からないような言い方、したか?
俺は。
何回も伝えたよな。
……水乃。
お前。
俺の気持ち、何だと思ってんの。
早手Side
「それでね……」
木南が少し嬉しそうに笑った。
俺は隣を歩きながら、黙ってその続きを待っていた。
水乃と木南が話した。
しかも、俺のことを。
あの日、体育館で水乃が何か言いかけていたことを思い出すと、どうしても気になった。
「水乃ちゃん、すごく優しかったんだ」
「……うん」
「私が家のことで悩んでたことも、ちゃんと聞いてくれて。早手がいてくれて心強かったって話もしたの」
「…………」
「私ね、あの時ほんとに不安だったから。早手が話聞いてくれるだけで、すごく安心できたんだ」
「……そっか」
「うん。だから、水乃ちゃんにもちゃんと伝えたかったの」
木南は前を向いたまま、少しだけ笑った。
あの件があってから、木南は以前より自分のことを話すようになった。
家のことも、今どうしているのかも。
俺に話したところで何か解決できるわけじゃないけど、少なくとも話を聞くくらいはできる。
だから最近は、木南が相談してきても以前みたいにすぐ突き放すことはなくなった。
ただ、それだけだ。
「それでね、私、水乃ちゃんにも言ったんだ」
「……何を?」
「これからも早手のこと頼りたいって。早手が近くにいてくれると安心するし、できればこれからも一緒にいたいって」
「…………」
木南が少し照れたように笑う。
「私、まだ早手のこと好きだから」
「……うん」
それは知ってる。
何度も聞いてるし、俺だって自分の気持ちは伝えてある。
木南が俺を好きなのと、俺が木南の相談に乗ることは別だ。
俺が好きなのは、今も水乃だけだから。
「そしたらね、水乃ちゃん、これからも早手のこと頼っていいって言ってくれたの」
「…………」
「早手はちゃんと話聞いてくれる人だから、私が頼りたいなら遠慮しなくていいと思うって」
「……水乃が?」
「うん!」
木南は嬉しそうに頷いた。
「私、水乃ちゃんにどう思われるかなって、ちょっと心配だったんだ。だって、早手と水乃ちゃんってずっと一緒だったでしょ?」
「…………」
「でも、水乃ちゃん、全然嫌な顔しなくて。むしろ、私のこと心配してくれたの」
木南は少しだけ声を弾ませる。
「それでね、私が早手と一緒にいたいなら、これからも一緒にいていいって言ってくれたんだ」
「…………」
一瞬。
何を言われたのか分からなかった。
「…………は?」
「だから、早手と一緒にいたいなら一緒にいていいって。水乃ちゃんに遠慮しなくていいって言ってくれたの」
「…………」
……水乃が?
俺と木南が。
一緒にいていい?
木南は俺の反応に気づいていないのか、嬉しそうに話を続けた。
「私、それ聞いてすごく嬉しかったんだ。今までは早手に近づくのも、水乃ちゃんに悪いかなって思うことがあったから」
「…………」
「でも、水乃ちゃんも早手とはもう別れてるし、私に気を遣わなくていいって」
……何だよ、それ。
別れてる。
そんなこと、言われなくても分かってる。
俺と水乃は、もう付き合ってない。
でも。
俺がまだ水乃を好きなことは、何回も伝えてある。
木南だって知ってる。
なのに。
水乃は、そんなこと言ったのかよ。
「それにね、水乃ちゃん、自分もちゃんと前に進もうと思ってるって言ってた」
「…………」
前に。
進む。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中にあの日の水乃の声が響いた。
『ちゃんと前に進まなきゃって……思ってる』
「…………」
木南は少しだけ笑った。
「だから、私ももう少し頑張ってみようかなって思ったの。早手にもっと私のこと見てもらえるように」
「…………」
……待てよ。
水乃。
お前。
「早手?」
「…………」
「どうしたの?」
「……それ、本当に水乃が言ったの?」
「うん。そうだよ」
木南は不思議そうに俺を見る。
「水乃ちゃん、私が早手と一緒にいたいなら一緒にいていいって、ちゃんと言ってくれたよ」
「…………」
思わず足が止まった。
木南も少し遅れて立ち止まる。
「……早手?」
何も答えられなかった。
頭の中で、今までのことが次々と浮かんでくる。
水乃が最近、俺から離れるようになったこと。
俺が話しかけても、すぐに目を逸らすこと。
慎とは楽しそうに笑っていること。
あの3連休。
俺があんだけ行ってほしくないって言ったのに、慎とデートに行ったこと。
そして。
『……いままでのこと、忘れたい』
『早手とのこと、忘れたい……』
「…………」
あの日。
水乃はそう言った。
俺の目の前で。
今にも泣きそうな顔をしながら。
それでも、忘れたいって。
だから俺は、それ以上何も言えなかった。
本当は、忘れてほしくなんかなかった。
俺とのことを全部忘れて、慎の方へ行くなんて、絶対嫌だった。
でも、あいつが前に進みたいって言うなら。
俺があの場で何を言っても、困らせるだけだと思ったから。
……なのに。
その前に。
木南に、そんなこと言ってたのかよ。
「……早手、大丈夫?」
木南が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「……あぁ」
「何か、怒ってる?」
「…………」
怒ってる。
いや。
まだ、自分でもよく分からなかった。
ただ、胸の奥が重かった。
水乃が俺を忘れたいって言ったことも。
慎とデートしたことも。
最近、俺を避けるようになったことも。
全部。
木南の話を聞いて、ようやく繋がった気がした。
……だからか。
だから、あいつ。
俺から離れようとしてたのか。
木南が俺を必要としてるから。
木南が俺と一緒にいたいって言ってるから。
だから、自分は俺から離れて。
慎の方へ行こうとしてたの?
「…………」
……何だよ、それ。
俺の気持ちは?
俺が何回、お前のこと好きだって言ったと思ってんの。
一緒にいたいって。
諦めねぇって。
何回も伝えたよな。
水乃だって、知ってるはずだろ。
「……早手?」
「…………」
木南の声に、ゆっくり顔を上げる。
「……俺さ」
「うん?」
「水乃が好きだって、お前にも言ったよな」
「…………」
木南の表情が少しだけ変わった。
「……うん」
「今も変わってねぇから」
「…………」
「それだけは、分かってて」
木南は少し寂しそうに笑った。
「……分かってるよ」
「…………」
「でも、私も早手のこと好きだから。簡単には諦められない」
「……うん」
「だから、もう少しだけ頑張らせて」
木南が俺を見上げる。
俺は何も言えなかった。
木南が俺を好きなのは分かる。
それでも、俺の気持ちは変わらない。
水乃が好きだ。
今も。
ずっと。
なのに。
その水乃が。
俺の気持ちを知っていながら、木南に俺と一緒にいていいって言った。
「…………」
何で。
何で、そんなこと言えんだよ。
俺が誰といたいのか。
誰が好きなのか。
分からないような言い方、したか?
俺は。
何回も伝えたよな。
……水乃。
お前。
俺の気持ち、何だと思ってんの。