人生の楽しい終わらせ方

銀色の刃の先が、つまづいていたTシャツの襟元を、ぴん、と乗り越えた。
サエキの肩がびくつく。

服の上は滑りが悪くて、時々布地をひっかけながら、まだ下へと降りていく。
サエキの心臓はきっと、ざくざくと嫌な速度で鳴っているだろう。
それを想像して、唇の端を舐める。
カナタの心臓も、早鐘を打っていた。

胸元に達したナイフの切っ先が、再びつっかえた。
サエキの顔色がわずかに変わった瞬間、フェンスにかけていた指を、くっと握る。
髪が引っ張られて、サエキの顎が上がる。
カナタはそこに鼻先を寄せて、喉仏を唇で撫でた。
「う」とサエキが声を漏らす。

舌先でほんの少しだけ擽って、軽く歯を立ててから、顔を離した。
ナイフを認識した瞬間と裏腹に、顔を赤く染めたサエキが、ようやくカナタを見る。
視線が合った、というよりは、ピストルを握ったような目で、睨み付けられていた。
射ち殺されそうだ。
カナタは笑みを深くする。


「こわい?」
「……べつに」
「サエキさんってホントにかわいいね」
「へんたい」


声が震えている。
ナイフの先が、Tシャツの上から下着の縁を辿っているのを、意識しているのだろう。
目尻が濡れていたが、サエキは頑なに涙を流さなかった。


「変態だよ」
「最低」
「まあね」
「離してよ」
「いいよ」
「離して」
「泣いて怯えて見せてくれたら」
「バカにしてんの」
「さあ」
「大っ嫌い」

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