人生の楽しい終わらせ方

脳のどこかが焼き切れそうな感覚。
全身が粟立つ。

首筋に擦り寄ってくるサエキの裸の肩に、手を置こうとして、一瞬躊躇った。
だが、やはり肩を掴んで押し戻す。
顔が見れなくて、俯いたまま背中を向けた。


「ダメ……?」


高く掠れた声。
泣いてる。
そう思った。

違うんだってば、そんなふうに泣かせたかったわけじゃない。
なんでこんなことになってんの、と、頭の中で吐き捨てて項垂れる。

袖を引かれる感覚。
サエキの動く音がしていた。


「待って、ごめん、ごめんなさい、嘘だから」


カナタの背中に、触れはしないように寄り添っているのがわかった。
もうしないから、と小さな声で囁く。


「もう言わないから、行かないで」


両腕を、緩い力で掴まれた。
と思ったら、きゅうと力がこもっていく。
ベッドに突いた左腕の、手首のあたりを、サエキはすがりつくように握り締めていた。

指先が食い込む。
相変わらず包帯の巻かれた、未だ癒えない傷にだ。

痛くて、眉間が歪む。
視界が濁るのが、暗闇でもわかった。
痛くて涙が出ているのか、違う理由なのか、よくわからない。
もしかしたら、本当はずっと泣きそうだったのかもしれない。

涙が滲んだまま、サエキを振り返った。
目が合った瞬間に、ぎゅっと顔が歪んで、細腕が腰に巻き付いてくる。
首筋に顔をうずめて、サエキはすん、と鼻を啜った。


「行かないでよ、おねがい……そばにいて、」


小さな子供のように引き留める言葉を吐き続けるサエキに、カナタは、一度伏せるように目を瞑った。

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