先天性マイノリティ



「よく生きてられるな、俺なら死んでる」



ナツメは、俺の顔を見るなりそう罵った。

冷たい眼だ。

高校時代はこんな印象ではなかった。

風貌は変わっていないのに、視線はまるで別人だ。

真っ直ぐに突き刺さる、殺傷能力のある瞳。

俺の心臓は言いようのない寂寥を訴えはじめる。

今直ぐ、逃げたい。

…この男は危険だ。

直感がそう告げる。



「あの、俺、やっぱり帰ります。明日もバイトがあるんで」


「バイト?はっ、随分お気楽だな。お前にとってコウはその程度って訳だ」



偏頭痛がする。

何故こんなことを言われなければならないのか。

惨めで、息をしていることすら苦痛に思える。

力を込めて拳を握ると掌に爪先が食い込む。

振り絞るように声を発した。



「…いつから、知ってるんですか…俺と、コウのこと。俺はナツメさんのこと、高校以来知らない」


「お前たちの関係は、社会人になったぐらいから知ってるよ。もう何年も前から。コウのことなら、俺はなんでも知ってる」


傲慢な言い方だと思う。


同時に、なんでも、という言葉の意味はとても広範囲を指し示すような気がして衝撃を受ける。


…俺より、ナツメのほうがコウを理解していたのではないか。

近くにいたのではないか?


そう思うと頭の中が真っ白になる。

言葉が見つからない。

そして彼は、重い鉄パイプを積み重ねるように追い打ちをかける。

死にたくなるくらい、鋭利な刃物で肉片を削られるような残虐な言葉で。




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