青空を君に透かさないで



貸出用の傘を取りに行くのは面倒であるし、雨の中で帰宅するのも得策ではない。教室で雨が止むのを待とう、と下駄箱の所に居た少年は振り向いた。振り向いた先に友達が立っていた。

「斎古、傘、忘れたの?」

斎古と呼ばれた少年は、肯首した。友達は、君らしいね、と笑って下足に履き替え、傘を差して早々に校門へ向かって行った。
彼の背中を見つめながら、斎古は困ったように眉尻を下げた。待ってよ、と言いかけて口を噤む───彼が振り向いて、斎古を不思議そうに見つめていたから。

「一緒に帰らないの?」

さも当然のように少年は言い放った。助け合うのが普通だろう、と言外に伝えられた気がして斎古は恥ずかしくなって顔を伏せた。

「置いてくよ。ほら、はやく」

唇を噛み締めて、眉根を寄せる。ぎゅっと掌を握る。心臓が穏やかに拍動を刻んだ。感情が柔らかく波打つ。足を、動かす。白靴が地面を蹴った。雨粒が散った。広げられた傘の中に、そっと、入り込んで。

「ありがとう」

彼の名前を、口遊んだ。




青年に呼び掛けようとして、斎古は口を閉じる。何もかもが靄に隠されているようだ。何を何処に落としてきただろうか。記憶が眼前を巡っていく。それでも、知りたい肝心な部分は白紙のまま。
ビニル袋から落ちた水滴が、コンクリートの地面に染みを作る。ラクトアイスは既に溶けているに違いない。

「君を、太陽だと思ってた」

沈黙に小さな声が落とされた。


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