金魚すくい


店員は注文を取りに、ハンディを持ったまま固まっている。


スラッとした背に短く切りそろえた黒い髪、二重の瞳が私を捉え、大きく見開かれている。


その容姿には見覚えがあった……。


知っているものとは少し違っているけれど、それを見間違えるほど、自分の目は腐っていないはずだ。




ーーけど……。


……まさかそんな。


そんなこと、あるわけない。


だってーー。





「…………優」



バサバサ……。


手に持っていたメニューが床に落ちた。


私と優の間で視線を行き来させていた勉さん。



「もしかして……彼氏?」



顔を覗き込み、声の音量を落としてそう聞いた。


だが静かな店内ではそんな声もよく通る。



「いえ……違います」


「そう?」



まだ不思議そうな顔を向ける勉さん。


私は落としたメニューを拾おうと手を伸ばすと、



「お客様、お取り致します」



そう言ってメニューを拾い上げ、差し出した。



< 65 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop