*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
ぴんときていない様子の汀に、露草はしびれを切らしたように詰め寄った。






「姫さま!!


このお歌は、春宮さまから姫さまへの、熱い熱い恋文でございますわよ!!」






「…………えぇっ!?」






汀が今度こそ驚いたように目を丸くした。






「どっ、どうして!?


私、春宮さまとはお会いしたこともないのに!?」






すると次は露草が目を丸くする。






「………姫さま。


高貴の方々は、ご結婚なさることが決まって、共寝をなさったあとに初めて、互いのお顔を御覧になるのが当たり前なのでございますよ。



それまでの間に、何度もお文をお交わしになって、少しずつ互いの想いを確かめ合うのです。


そうして恋心をお高めになって、この人こそとお心が決まられてから、やっと殿方が姫君のご寝所に忍んでいらっしゃるのですわ」






「えぇっ!!


じゃあ、顔も知らない人といきなり閨に入るということ!?」






汀は青天の霹靂といった表情だ。








< 275 / 650 >

この作品をシェア

pagetop