*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「ーーーーー犬の名前なの」
「…………は?」
うふふ、と嬉しそうに笑いながら言った六の君を、ぽかんと口を開いた間抜けな表情で露草が見つめる。
「…………い、犬?
………と、いいますと。
あの四つ足で歩く獣の、犬、で、ございますか……?」
「そうよ」
六の君は、幼い少女のような屈託ない明るい笑顔で答えた。
「私がほんの子どものころ………。
まだ前の家にいたころね、隠れてこっそり飼っていた犬の名前なのよ」
「は、はぁ………」
露草は図らずも気の抜けた返事をしてしまった。