桜の雨が降るとき

第四話   芽衣

「気をつけー、礼ー」



間延びした号令の声と同時に、たくさんの人が教室から出て行く。


人の波に呑まれないように、扉の近くにいた私は少し身を反らした。


いつも思うけど、みんな、何をそんなに急いで帰る必要があるんだろう……。



「芽衣帰ろー」



みんなの波も一段落ついた頃、小柄なすぅがひょこひょこと教室に入ってきた。
すぅの歩き方は本当に「ひょこひょこ」してる。



「いいよー」



私はマフラーを巻きながら答えた。
この地方は、4月に入った今でもまだ寒いのである。


そのまま教室の外に出ようとしたのだが、ふと足を止め、



「相内」



とスポーツバックを背負おうとしている彼を呼び止めた。



「ん?」


「明日日直なんだけど、日誌取りにいける?」



これまでと同じシステムで、日直は1日おきに席が隣の2人がつとめるらしい。


明日は一番と二番……つまり私たちだ。



「日誌?」



首をひねる相内。



「日直のどっちかが、会議が始まる8時半までに職員室に行って日誌とって来なきゃいけないの」



わかりやすいかどうかはともかくとして、とりあえず私は丁寧に説明してあげた。



「えー……。面倒くさい」
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