糖度∞%の愛【改訂版】

手の震えも、さっきのめまいに似た症状も、考えてみれば簡単に低血糖だと分かるのに。どうしてすぐ補食という行動に移せないのか。

毎回そう思うけれど、これが低血糖の症状なのだ。

軽い低血糖ならまだ思考ははっきりしているけれど、かなり低い血糖値になると自分の中の考えはもうめちゃくちゃになる。補食すればいいと分かっていながらも、それをしないでよく分からないことを考え続けてしまう。でもそれを振り切ってなんとか補食しなくちゃいけない。

低血糖で嫌なのは、お腹がいっぱいで何も食べたくないときでも、補食のために何か口にしなくちゃいけないことだ。これは結構きつい。

……じゃなくて、本当になにかあまいもの食べなくちゃ。

スーツのポケットの中にいつも入れてある補食。スティックシュガーを手に取ろうとポケットに手を入れる。
自宅でだと、一番糖の吸収がいい“グルコレスキュー”というものを補食する。でも会社ではたいていチョコとか飴とか、一口で口に入れられるものを補食している。
普段はそんなに低血糖になることがないから、ブドウ糖より吸収の悪い砂糖の糖分で十分な補食になるんだけど。
でもちょっと今回はかなり低い感じがする。でも間の悪いことに今日に限って緊急用で鞄に入れてあるグルコレスキューがなかった。

こういう低血糖で意識がはっきりしてないときとかに固形物は危険だ。固形物を入れて喉につまったりする恐れがあるからなんだけど。だから、敢えてぽぇっとに入っていたチョコじゃなくてスティックシュガーを選んだ。

口を切って、少し掌にあける。それをひとつまみして口の内側に塗りこむのだ。

いつも不思議に思う。ぐらぐらしたり、思考がおかしくなったり、手が震えたり。

低血糖の症状は様々だけど、こうやってちょっと甘いものを口にいれるだけで、それがじわじわと綺麗になくなるのだ。
本当に人間って不思議だ。

少し意識がはっきりしてきたところで、残りをそのまま口に流し込んだ。
ここまでくればのどに詰まらせる心配もないから。
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