神様の願いごと

ふう、と息を吐く。おでこの汗を指先で拭う。ぬるい風が汗を冷やさず、肌を気持ち悪く撫でていく。

命の日陰の下から、雲ひとつない、青い青い空を仰いだ。


「夏だなあ……」


きっと今頃家では、お母さんがクーラーを効かせている頃だろう。

学校の近くのコンビニはアイスがたくさんあるし、市営の図書館に行けば一日中涼しい中でのんびりできる。


なのにわたしは、便利なものも楽しいものもおいしいものも何もない、こんなところで空を見ている。

なんでだろうと、自分でも思う。そりゃ当然、答えは神様に脅されているから以外ないんだけれど。


なんでだろうと、思う。


「ん……?」


ポケットから音が鳴った。買ってからそのままの設定の、ケータイのメール着信音。

取り出すと、新着メールが届いていた。


「ほう。めーるというやつだろう、知っているぞ」


いじけモードから早々と復活した常葉が画面を覗いてくる。


「手紙を届けなくても言葉がすぐに伝わるのだろう。便利な世の中だな」

「へえ、よく知ってるねえ。わたしもケータイ持つまでは、よく手紙書いてたんだけど」


受信ボックスを開くと、送り主と件名が出てくる。送り主は神崎大和で、件名はいつもどおりナシ。


「かんざき、やまと」

「あ、ちょっと見ないでよ」

「誰だ、大和とは。なかなか男らしい名だな。かれしか?」


わたしの言葉は無視して画面をガン見してくる常葉。

まあいっか、常葉だし、とため息を吐きながら、諦めて本文を開いた。
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