神様の願いごと

静かな風が吹いた。

光が、ふわりと空へ浮かぶ。


「大和。夢を諦めたお前の覚悟は美しい。傷ついて、それでも立ち上がり前へ進むお前を、この“夢”はいつまでも遠くで支えてくれるだろう。

さあ、目を開けろよ。暗いと思っていた空は、本当にお前が思うように暗いか? たったひとつの星もないか? そんなはずはない。お前が目指し続けた光は、確かに今も、輝いている。

お前の痛みがお前にしかわからないように、そうしてお前に見えた輝きは、すべて、お前だけのものだ」


青い空に、ひとすじ。

光の線が、薄く伸びる。


「何もかも……終わったわけじゃないのか?」

「繋がっている。まだお前の道はどこまでも」

「……こんなに苦しいのに、俺はまた立ち上がれる?」

「お前に進む意思があるのなら」



それはあっという間に空に溶けて見えなくなってしまったけれど、いつだって必ず側にいて、道を照らしてくれている。

あたたかな、夢の光。



「大和、お前の願い、聞き届けた」



もう何も見えなくなった空に、常葉が呟いた。

大和は空を、いつまでも見つめていて、もう涙が止まった目を、眩しそうに細めていた。


「…………」


届かなくなった、大切な夢。

その夢への道は途絶えても、終わりまでは、まだ他にいくつも道があって、その道のもとへ戻るには時間が掛かるけど、確かに繋がっているんだから、もう一度歩き出せばいい。

それがどこへ続いているか、どこまで続くかわからないけど。先の知らない道を歩むなら、それはすべてがはじめの一歩。

踏み出していくだけ。新しい一歩を。


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