神様の願いごと

社会人になって、4ヶ月。なんら特別じゃない、わたしは一般企業の普通のOLになった。

すごい資格を取って、特別な仕事をして、ガンガン人を助けたりしてたらかっこよかったんだろうけど、あいにくわたしは今も変わらず誰より平凡な人間だ。

得意なことはなくて、たいしてできることは少なくて、成績は中の下のその他大勢の一部。


でも、あのときに願った夢は今もずっと持ち続けてる。

どんな場所にいたって変わらない夢。とても大切な、こうありたいという自分自身への望み。



「千世。常葉さんって、やっぱりもう会ってないの?」


もうすぐ目的地、ってところで、ふいに大和がそう訊いた。

大和は、大学でスポーツ医学を学んでいる。今は院生。まだ、夢への道を歩んでいる最中だ。

きっと常葉は、今の大和を見たら、今までよりももっと好きになるに違いない。


「うん。あのお祭りが最後」

「そうなんだ……」

「でも消えてないよ。だって約束したもん。わたしの夢、ずっと見守ってくれるって」


わかったって、常葉は答えた。だからわたしも信じたんだ。

わたしの神様は今もどこかで、のんびりときどき昼寝でもしながら、この町の人の夢を、見守っているって。


「あ、大和、あそこだよ」


住宅街の隅。新しくできた公園のすぐ隣に、大人の背よりも少し高いくらいの小さな鳥居が見えた。

その奥には、こじんまりとしたお社。最近建てられたばかりの、神様のお家。

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