華ヒメゴト
アイビーの章

1.

ぼやけた意識の中で、微かな明るい光をみた。久しぶりに朝を感じた気がする。儚くてどこかあたたかい、朝。

ーそう、昔の彼みたいに。

その彼を、私が変えてしまった。いや、もともと彼はそうだったのかもしれない。もう、どっちでもいいや。

私は愛されなかった訳じゃない。むしろ、愛してもらった。

「まだ、逝っちゃダメ」

そう言って、背後から彼は私を優しく抱きしめてくる。その体温が暖かい。私は恐る恐る彼の腕に触れた。ジャラジャラと手首の金属が重い。

ーあぁ、彼だ。

目が見えないぶん、彼の存在を良くわかるようになった。

「ねぇ、どんな夢を見たの?僕に教えてよ?向こうの世界はどんな世界?」

彼は耳元でそう囁く。これが、悪魔の囁き。

「…何も、、、見れなかった。」

私は、そう答える。今まで何を答えても貴方の欲する答えを言えなかったから。

「そうか…」

彼はそう呟いて暫く無言で考えているようだ。

また、いつものアレ。

< 14 / 18 >

この作品をシェア

pagetop