i f~小さな街の物語~

第9話「広がる輪」



翌日

「翔、起きろ~。」

俺は裕太に起こされ目を覚ました。

裕太はすでに制服に着替えていて

いつでも登校できる状態。

俺はとてつもなく朝に弱い。



起こされたあとも、眠気と戦いながら着替えを済ました。


その間、裕太は自分が使った布団を畳んだり

俺が貸したスウェットなどもキチンと整理していた。

「裕太ってさ、意外にしっかりしてるよね。」

「これくらいは当たり前だろ。翔がだらしないんだよ。」

裕太は俺を笑いながら見ていた。



たった一晩一緒にいただけなのに

俺達はまるで別人のように仲良くなっていた。
裕太もそう感じていてくれたと思う。







そのあと、急いで朝ご飯を食べ、学校に向かった。


「いってらっしゃーい!」



母さんは

昨日のことを一切、顔にも口にも出さず

笑顔で俺達を送ってくれた。



俺は少し心配にはなったけど

あまり気にしないようにした。







登校中

俺と裕太は昨日の話をしながら仲良く登校していた。





二人で歩いていると

後ろから卓也たちがやって来た。



「翔おはよ~!なになに?友達~!?」




見知らぬ男と仲良く歩く俺の姿に

卓也はかなり驚いていた。



俺の性格をよくわかってくれている卓也だから

2、3日程度では、友達ができると思っていなかったのだと思う。



「お~友達だよ。同じクラスの山口裕太!」


「裕太かぁ!よろしくな~!俺は翔の親友の山岸卓也!

こいついい奴だろ~?!俺とも仲良くしてくれよっ!」

卓也はいつもの調子で

嬉しそうな顔をして裕太に絡んでいく。



「卓也ね!話は聞いたよ。

翔の言ってた通りの奴だなぁ。よろしく!」



正直、裕太は

卓也みたいなタイプの人間が

苦手なんじゃないかって心配になったけど


俺の不安をよそに

裕太は満面の笑みで卓也と喋っていた。



彼はそのあとも

太一、竜也、大和とそれぞれ言葉を交わしていく。



みんなが笑顔だった。



俺は自分のことよりも

こうしてみんなが仲良くなっていくことが

幸せで幸せでたまらなくて





まだ入学して3日目しか経っていないけれど

少しずつ、これからの3年間が楽しみになっていた。












「じゃあな~!翔!裕太!」



卓也のいつものセリフに、裕太の名前が加わり
俺と裕太は3組に入っていく。





教室に入ってすぐ
みんなが驚いた顔でこちらを見た。

ヒソヒソと何かを言っている連中もいたけど
俺は何も気にしない。



裕太の良さはわかってる。


むしろ、裕太のことをわかっていない

みんなに腹が立った。


でも人間て不思議。



俺も昨日の放課後までは

裕太のことをみんなと同じ目で見ていたんだから。







そんなことを感じながら裕太との会話を続けた。

「ごめんな翔。俺はいいけど、お前までみんなから変な目でみられちゃって。。」

ふと、裕太は俺にこんなことを言ってきた。

「ばーか。んなこと気にしてないよ。」


俺は笑顔で答えた。









俺たちは、もう「友達」と認め合っていた。


そして、お互いに出会えたことで

自分が変わっていけると確信していたんだ。





その日は、授業なんて上の空。



裕太とずっと話をしていた。


何度か担当の先生に注意されたりもしたけど

そんなことも関係ないくらい楽しい時間。





昼休みには

卓也たちと合流して
見学した部活の話を聞いたり

俺と裕太はどうしようかと悩んだりもした。



卓也たちは
もう本格的に部活を始めているらしい。






その日の帰り道。
裕太と公園に寄って話をした。


「なぁ裕太、マジで部活どうする?」


「あ~そうだったなぁ。
つか、うちの中学の先輩たちの中にも
明らかに部活入ってないだろって先輩何人もいるじゃん?
あの人たちはどうしてんのかな?」


「確かに。
なんか名前だけの部活もあるみたいだけどね。」

うちの中学には
いろいろなタイプの人たちがいる。


髪型や服装に関して
先生たちがうるさいことを言わない。

それも原因の1つだと思う。




先輩たちも普通にしていれば、何もしてこない。



もちろん、ガラの悪い学校だから

後輩に対して
威圧的な態度をとる先輩たちもいたけれど

特に気にする必要もなかった。




「明日いろいろ調べてみよう。
姉貴も同じ中学の出身だから聞いてみるよ。」

「おぅ、頼むよ。
んじゃあ今日はこれで!また明日。」




こうして、この日はまっすぐ帰宅した。



(次は部活の問題か、、、)



中学生だって、いろいろと考えることはある。



大人にとっては
大したことではないかもしれないけど



13歳の俺たちにとっては

部活だって、大きな選択の一つなんだ。















「ただいま~。」


家に帰ると鍵が開いていた。

母さんは今日はまだ買い物に行ってないみたい。


「、、、、ただいま~!、、、、母さん?」


いつもなら

「おかえり~♪」と言って

明るく出迎えてくれる母さん。



でも、今日はなんの反応もない。

「母さ~ん?」

1階には誰もいない。

(珍しいな、、、2階かな?)

2階には俺の部屋、姉貴の部屋
そして両親の寝室がある。

何となく、両親の寝室を開けてみた。


、、、、、、、



、、、、、、、


部屋は真っ暗で誰もいない。


(、、、おかしいな~。俺の部屋かな?)

そう思い部屋を出ようとしたとき

真っ暗な部屋の中に人の気配を感じた。

俺は少し怖くなって
電気をつけかけた手を止める。

「、、、母さん?」

怯える俺の声に、ようやく反応があった。

「あ、、、翔?帰ってたんだ、おかえり♪」


暗闇の中から聞こえた母さんの声は

いつもよりも寂しく聞こえる。



「おかえりじゃないよ。
さっきからデカい声で呼んでたじゃん!
なにやってたの?」

「なんでもないよ♪ちょっと寝てただけ♪
寝不足でさっ♪」



「、、、とりあえず電気つけるよ。」



その瞬間。

「つけないで!!!」

今まで聞いたことのない
母さんの怒鳴り声に俺は再び手を止めた。


でも明らかに、何かがおかしい。


「なんなんだよ!?最近おかしいよ!
飯も食わないし、昨日だって親父と喧嘩してたの知ってんだよ!なにがあったんだよ!」


俺は声を荒げる。

そうしなければおかしくなりそうだったから。

「知ってたんだ。翔ごめんね。。
でも本当になんでもないから♪
もうちょっとだけ寝かせて。」


「わかったよ。俺もごめん。」



俺たちは家族。



それ以上何を言っても

望む答えは返ってこないと確信し
俺は静かに自分の部屋に戻った。
















俺は気付いていた。

母さんが、暗い部屋で泣いていたことを。





第9話

「広がる輪」~完~


第10話

「不器用なカレー」へ続く



< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop