本当の俺を愛してくれないか?
「ぶっ、ぶちょー!!」


「わっ!?ちょっと!小林さん!?」


みんながいるというのに、いきなり抱きついてきた小林さん。


「きゃー!宏美ってば部長になにやってるのよ!」


状況を把握して、小林さんと同期入社の市川さんがなんとか俺から小林さんを引き離そうとしてくれたが、なかなか小林さんは俺を離してくれず。


「...寝てる?」


よく見ると俺に抱きついたまま、小林さんからは規則正しい寝息が聞こえてきた。


「あちゃー...。宏美寝ちゃいました?まいったなぁ」


...ちょっと待て。嫌な予感がするんだけど...。


ーーーーーーーー

ーーーーー


「それじゃあ部長、すみませんが宏美をよろしくお願いしますね」


「...あぁ」


居酒屋の店先で、なぜか小林さんを抱き抱えている俺。

あの後、どんなに頑張っても小林さんは離れてくれないし、起きてもくれず。


「部長ー!送り狼にならないで下さいよ!」


「なるわけないだろ!!」


そう。どっちみち一次会で帰ることを伝えていた俺が小林さんを送って行くことになってしまったわけで。


「それじゃあ部長お願いしまーす」


「あぁ、二次会楽しんできてな」


みんなを見送り、いまだに気持ち良さそうに眠っている小林さんを見ると、つい溜め息が漏れてしまう。


「なんで俺が...」


明日から三連休。だけど仕事は終わっておらず明日までに仕上げなくてはいけない仕事があるって言うのに...。

とにかく考えてても仕方ない。
早いところ小林さんを送り届けて家に帰ろう。

そう思い、タクシーをひろい教えてもらった住所先を伝え向かった。


ーーーーーーー

ーーーー


「...ここだったのか」


住所を聞いた時から近いな。とは思っていたけどここまで近いとは。

小林さんが住んでいるアパートは、俺の住んでいる所から歩いて15分くらいのところだった。


助かったな。近くて。

そんなことを考えながらも、小林さんを抱き抱えたまま階段を昇る。

小林さんの部屋は二階の205号室。


今は夜の11時過ぎ。
近隣の迷惑にならないよう、小林さんにそっと声を掛ける。


「小林さん。起きてくれ。家についたぞ」


揺すりながら声を掛けるものの、なかなか起きてくれず。


「...仕方ないな」


鍵のしまい場所を聞いておいてよかった。


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