徒花
本気で結婚する気があるなら、こんなことはしないはずなのに。

お父さんに反対されて腹が立つのはわかるけど、でもこんなんじゃ、いつまで経っても許してもらえるはずなんて。


私はそのやりとりすら見たくなくて、息を吐いた。



「放っときなよ。下手なこと言ったら、こっちまでとばっちりだ」


ダボくんは煙草を咥えた。

どうしてそこまで無関心でいられるのかと思う。



「ねぇ、カイくんは? まだ連絡取れないの?」


さすがにそう聞いてしまったが、



「何かあいつ、今、地元に帰ってるって。相変わらず、謎なやつだよねぇ」


ダボくんはまた他人事のように言う。


あんな人でも、いなければ誰もこれを止められない。

なのに、肝心な時に頼りにならないなんて。



「ふざけんなよ、コウ! てめぇが何でイラついてんのか知らねぇけど、こっちに当たり散らしてんじゃねぇ!」


ついにキレたらしいユキチくんは、そう叫んでコウの手を払い、「マジでうぜぇ」と吐き捨てて、そのままどこかに行ってしまった。

コウはその背に向かって舌打ちを吐き捨てるだけ。



「おい、ユキチ! 待てって!」


ダボくんは仕方なしにユキチくんを追う。



「マリア、帰ろうぜ」

「え? あ、うん」


傷だらけの手で腕を引かれた。

誰のものかもわからない血のついたコウの手は、好きじゃない。


今のコウとは一緒にいたくないのに。

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