徒花

濁水



コウはあれからだって何も変わらない。

何も変わらないまま、私の傍で、飽きもせずに優しさをくれる。


その度に、自分自身の醜さを痛感させられた。


コウは私に語り掛ける。

今、どういうニュースが世間を騒がせて、どんな芸人が面白いことを言ったのか、と、くだらないことでも楽しそうに喋る。



「そんで今日は8月10日だよ。火曜日。もうすぐお盆だってさ」


最近やっと、時間の感覚というものも戻ってきた。



てっちゃんと過ごしていたのは、一年とも十年とも思えていたけれど、実際はほんの一ヶ月ほどの出来事だったらしい。

そして私がコウによってこの部屋に連れ戻されてからですら、二週間程度しか経っていないのだとか。


コウは私の傍を離れない。


コウは、決まって「マリアは何も悪くない」と繰り返した。

コウが優しければ優しいほど、自分自身が嫌になる。


コウの所為の所為でこんなことになったのに。



なのに、コウに頼り切っている今の自分。



「また今日も夕方から散歩すっか。夕立とかにならなきゃいいけどなぁ」


唯一の日課になりつつあるそれ。

毎日あのお化け公園までふたりで歩いては、ボスのお墓に、道端で摘んできた花を供えて帰る、散歩。


けれど、体力の回復と共に、次第に見えてくる現実が怖かった。


レイプされたこととか、おばあちゃんが死んだこととか。

逃げ続けているだけでは何ひとつ解決なんてしないのに。



それでも私は耳を塞いでいたかった。

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