徒花
断る術なんて持ち合わせてはいなかった。

ただ、どうやったら上手く逃げられるかと、そればかりを考えてしまう。


なのにダボくんは、そんな私を気に留める様子さえないらしく、



「テツ先輩なら生きてっから。まぁ、クスリ抜くために今は更正施設っつーの? あそこに入ってるけど、そのうち戻ってくると思うよ」

「……え?」

「って言っても、どうせもうこの街にはいられないだろうけど。出てきたら地元にでも帰るんじゃない?」


どうしてダボくんがわざわざこんなことを言ったのかはわからない。

けれど今まで気になっていたからこそ、それを知れて、少しばかり気持ちが楽になった。


きっと私は、どうやったっててっちゃんを恨むことはできないのだと思う。



「つか、テツ先輩、『マリアに謝りたい』とか言ってたよ。『もう一回だけでもいいから会いたい』ってさ」

「………」

「テツ先輩はどうしようもない人だったけど、まぁ、どっか憎めないとこがあったっつーか。コウに似てんだろうね。今更言っても遅いけど、クスリさえしてなきゃなぁ」


ダボくんの吐き出した煙が風に滲む。


てっちゃんと過ごした最後の晩に、初めて聞いた生い立ちと過去。

ずきりと胸が痛むのを感じた。



「けど、人間、本気でやり直したいと思ったら、どこでもスタートラインになるんだってよ。何かの本にそう書いてあった」


そしてダボくんは宙へと投げていた視線を私に戻し、



「マリアちゃんも、コウも、そうなんじゃない?」

「……え?」

「俺にも一応は老婆心ってやつがあってさ。馬鹿なやつほど気になるっつーか、そういう感じかもしれないけど」


ダボくんは、カシャン、カシャン、とジッポを指で弾く。



「あんなんだけど、コウなりに懸命なんだよ。本気でマリアちゃんのこと考えてんだって」
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