徒花
コウは急に不機嫌になって舌打ちする。



「カイは、俺があいつと会う方がいいとか思ってんのかよ」

「だから、知らねぇっつの。それに、俺がどう思ってようと関係ないっしょ。そういうことは自分で決めろや」

「………」

「まぁ、迷ってるってことは、お前の中にも少しくらいは罪悪感があるってことだ。いや、未練か?」


カイくんは私を見ない。

私には関係ないということなのだろうか。



「とにかくまぁ、俺は千夏に頼まれてた伝言、確かに伝えたぞ。あいつ、一週間はこっちにいるって言ってたから。あとはコウが考えな」


カイくんは、「じゃあな」と去っていく。

コウは顔を俯かせた。


重い沈黙を破ったのは、私。



「元カノでしょ」

「あー……」

「おまけに嫌いで別れたわけじゃない、とか?」


コウは誤魔化すように「ははっ」と空笑い。



「今でも好きなの?」

「まさか」


それにしては、歯切れが悪い。

いつもだったら『他の女なんかいらねぇよ』とすら言う、この人が。


イライラした。



「気になるなら会いに行けば? 私のことなんか気にしないで、ゆっくり話してくればいいじゃない」


言い捨てて席を立った。

けれど、慌てたようにコウは、私の腕を掴んで制す。



「行かねぇよ。もう終わったことだ」
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