徒花
恐る恐る鍵を開けたら、刹那、コウの手によってドアが開け放たれた。



「マリア」


コウの顔を見た瞬間、私は平手を振り上げていた。

バチン、と乾いた音がする。


けれど、コウは無理やり私の腕を引き、私をその胸に抱きすくめた。



「離して」

「離さない」

「離してよ!」


もう一度平手を振り上げたのに、逆にその手を掴まれ、唇を奪われた。



「ごめんな」


どうして私はこんな男が好きなのだろう。

どうしてコウじゃなきゃダメなんだろう。



「大っ嫌い! 馬鹿! 何でなのよ!」

「マリア」

「何で私はあんたみたいなのを――」


それ以上は言えなかった。


コウは再び私の唇を塞ぐ。

何度も何度も角度を変えながら、私の口内をまさぐって、「愛してるよ」と繰り返す。



敵うわけがない。



これがコウの『魔力』というなら、本当にそうだ。

自分がどれほどの大馬鹿ものなのかくらい、十分わかってる。


それでもあとからいくらでも理由はつけられる。



「もうどこにも行かないで」


弱々しく言ったら、コウはそんな私を強く抱きしめた。

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