徒花
菅野さんとやらは、肩をすくめて煙草を取り出した。

すかさず、後ろの男のうちのひとりがジッポを差し出す。



「で、その子は? コウの新しいのか?」

「あ、はい。マリアです」


コウが紹介するように言ってこちらを一瞥したので、私も一応、頭を下げた。

だけども菅野さんとやらは、「マリア?」と首を傾げ、



「マリアってあの、フィールの?」

「もう辞めましたけどね」


私ではなく、コウが答えた。



確かに数ヶ月はナンバーワンだったから、少しは顔が知られていたとしても、飛び抜けて有名店というわけでもないあの店にいた私なのに。

別に、消したい過去というわけでもないけれど、でも今更そんなことを言われるなんて思いもしなかった。


なのに、菅野さんとやらは、なぜか前のめりに聞いてくる。



「何でそんな女がまた、コウなんかと付き合ってんだ?」

「たまたまですって」

「『たまたまです』ねぇ」


菅野さんとやらは不機嫌に肩をすくめ、



「まったく、こんな顔だけのやつのどこがいいんだか。コウなんて、他に取り得がねぇだろ」


もう聞き飽きたようなことを、この人まで。

みんな、コウを一体何だと思っているのだろう。


私は愛想笑いしか返せない。



菅野さんとやらは、そこで腕時計を一瞥し、



「おっと、長話してるほどの時間はねぇんだった」
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