風の吹かない屋上で




屋上という存在にロマンを感じるのは俺だけじゃないはずだ。
中学の頃は立ち入り禁止の板でさえぎられていた屋上への道が、高校では開放されると……そう信じて疑わなかった。
受験戦争に揉まれてめでたく入学した高校。
確かめにいった屋上への道はまたしても行き止まりだった。
俺たちはもう高校生なのに、屋上に行く事すらも許されないのか。
なんとも言えない思いで、古ぼけたKEEPOUTを見ながら俺はその場に立ち尽くした。

「逆に考えれば、立ち入り禁止だから誰もいない……とかな」

唐揚げを頬張りながら視線を落とすと、トイレの隅っこに煙草の吸殻が落ちているのが見えた。
堂々と学校で煙草を吸うやつがいるのに、誰も屋上へ行かないのは不思議だった。
友達からも屋上へ行った奴の話を聞いた事がないし、そもそも屋上の話が上がったことなんてない。
屋上は元々無い。そう割り切っているのだろう。
閉じられた可能性の存在すら、いとも簡単に消し去るのだ。

「なんかそーゆーのって、つまらねぇよな」

自動販売機で買ったペットボトルのお茶を一口飲んで、ケースに箸をしまった。今日の昼飯はこれで終わりだ。
ごちそうさま、とても美味しかった。
これがトイレじゃなかったらもっと美味しかったんだろうけど。

静寂は痛いくらいで、トイレ内の無機質な感じは全ての感覚を奪っていく。
腕時計を見ると教室に帰るにはまだ少し早いように感じた。

「屋上……ねぇ」

揺らぐKEEPOUT。鎖の音がチャラチャラと安っぽい音をたてて、薄っぺらい境界線を作っている。
壊せるものなら、壊したい。

「試しに行ってみるか……」

俺は弁当を片付けながら耳を済ませて辺りの様子をうかがい、個室を出ると早足で屋上へ続く階段に急いだ。

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