風の吹かない屋上で


葬式には行かせてもらえなかった。
俺にはただ死んだということが伝えられただけだった。

死体すら見れなかった俺は、未だに愛花姉ちゃんが死んだという事が信じられない。

受験が終わったあと、ガリ勉のあの子の自殺を知った直後、俺は愛花姉ちゃんが入院していたと言われている病院の屋上で愛花姉ちゃんのことを考えていた。
真っ白なシーツが物干し竿に揺れているのが酔いそうだった。
愛花姉ちゃんの面影を見つけようかと思ったけれどもう何年も前のことであまり浮かんでこなかった。

ただ、浮き上がったあの赤い傷口だけは。
あれだけはどうしても忘れなかった。リストカットのことは知っていたけれど、やって見る気にはなれなかった。
毎日幸せだったしそれなりに順調な学生生活を歩んでいたから、絶望することなんて全く無かった。幸せなのだ。今もあの頃も。



俺は今でもよく自分の日焼けした手首を見て思う。

愛花姉ちゃんが入院していたのはきっと精神科だったに違いない。
たぶんそこでリストカットの禁止をされて。
耐えきれなくなって自殺したんじゃないか。

生きるための自傷行為だったんじゃないか。
そうだとしたら愛花姉ちゃんを殺したのは誰だ。



誰なんだ?

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