懐古語り
愛しき女性



一番上の兄が亡くなって代わりに同腹である直ぐ上の兄が東宮となってすぐ、内裏に女御が入った。



兄にはまだ特定の人が居なかったから、貴族連中が競って入内させたのだろう。



年の瀬に一番はじめに入った女御は大層美しい人であると評判だった。


兄はどう、思ったのだろうか。



その美しい女御を抱いて。


美しい見た目で、身体だけ満足したのだろうか。



これからもまた何人も更衣や女御が入内してくるのだ、言い方は悪いが夜の秘め事には苦労しないだろう。


愛さなくてもよいのだ。



だが、兄は違うだろう。



出来た人だから。とても優しい人だから、誰にも誠実に接するのだろう。


そんな人だから、私ではなく兄が東宮へと立てられたのだ。


私では心許ないからだと。



兄のことを誇らしく思うが、一方で自分が惨めで、兄を妬んでしまう自分が憎らしく、だから確かなものが欲しくなる。



兄に何か一つでも勝てるものが。












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