しあわせだ。あえてよかった。だいすきだ。


薄い生地のカーテンで間仕切りされている店内。夜に飲まれかけた夕日のような控えめな照明が、固めのソファに二人分の影を作り、机の上の空いたグラス達に光を移している。



澤田ハルカとは中学一年生以来の腐れ縁で、同じ市内の中学生が通う学習塾で出会った。無事、県下数番目、上の下の進学校に二人して進学。3年間同じクラスになることは一度たりとも無く、安穏と過ごし、人並みに受験を終え、この海辺の街へ進学してきた。
進学先はまた別だったけれど、下宿は目と鼻の先だった。


だから、何かあるにしろ無いにしろ、こうしてよくグラスを寄せ合う8年目。


初めての彼氏にもらった初めての安いペアリングを大泣きしながら海に投げた次の日に、塾の宿題をうつすことに必死になっていた、メイとハルカのあの頃。



変わったのは、メイクの濃さと、爪の伸ばし方。髪の色。


「初夜に置いとく」的貞操観念の喪失。




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