こんな能力(ちから)なんていらなかった



 それは夢にすぎない。
 だが、優羽にとってはこの上ないほど幸せだった。

 夢を見ていない時は現れない紫音。
 最近では悪夢を見るのを少しだけ楽しみにしていた。
 こんなこと紫音には言えないが。


「あ、……晃だ」


 紫音の後方に見えた背の高い男に向かって手を振る。


「おーい」

「優羽さm……優羽!」


 晃は言い直しながら近付いてくる。

 晃は何故か優羽の名前にすら様をつけようとする。

 上司である(らしい)紫音ならまだしも、普通同級生につける?と聞いたら癖だと言われた。
 確かに行動を共にすることが多かったこの数週間で、晃から様付で呼ばれている人を何度も見たが、それは大体年上だったり自分より立場が上の人だったりで、同級生では優羽を含めた三人ぐらいしかいなかった。
 それは癖だと言えるのだろうか。

 とにかくそれをやめてくれと頼んだのが二週間前。成果は芳しくない。


「……俺には挨拶ねぇの?」

「あれ、いたんだ?」

「うわ……ひっでー」


 鳴き真似をする唯斗にウソだってと肩を叩きながら伝える。

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