こんな能力(ちから)なんていらなかった



 だからと言って、折角の気遣いを無駄にすることはできない。
 どうしたものかと思案していると、何か音が聞こえることに気が付いた。
 それは段々と近付いてきている。

 それは走ってる人の足音によく似ていた。



 その時ヒョイと優羽のブレザーに手を突っ込まれるような感覚がした。


 見れば小さな腕が優羽のポケットをまさぐっている。


「奈々!?」

「はぁい♪」


 奈々はケータイを取り出すと一歩下がった。

 そして代わって葵が教室に入ってきた。
 葵の肩は大きく上下している。
 呼吸も荒い。

 それだけでどれくらい必死に走ってきてくれたか分かった。


 葵は優羽の姿を見つめる。優羽も見つめ返す。
 葵は一歩踏み出すと、たまらなくなったのか駆け出し優羽に抱きついた。


「ちょ、葵!」

「無事で……よかったわ……」


 葵の声は震えていた。


「うん」

「でも、無傷ってわけではなさそうね……」


 葵の視線が頭に向かっているのを見て、優羽はなんのことを言っているのか分かった。


「大丈夫、紫音が治してくれたから」

「でも……」


 葵は眉を垂らす。


「痛かったでしょう?」


 慈愛に満ちた葵の眼差しに優羽は思わず泣きそうになった。

 ぎゅっと葵を抱き締める。



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