『友人狩り』
携帯の時間を見る。

―07時00分。

郁哉は体を起こし、同じ部屋で寝ている哲郎、翔馬、信吾を順に起こしていった。
郁哉たちがリビングに入ると薫と梓はとっくに起きていた。

「おはよう。」

リビングのソファーに座り、マスカラを一生懸命塗っている薫が郁哉たちをチラッと見た後、鏡に顔を向けて声をかけた。
それに反応するように梓が台所から顔を出してきて「おはよう。」と言った。

「雫は??」

郁哉は部屋に雫がいないことに気づき、台所に戻った梓に聞いた。
梓は郁哉に柔らかい笑みを見せると洗面場のほうを指差した。
 
「顔洗っている。」

梓はそう言い、冷蔵庫から人数分のペットボトルを取り出した後、郁哉に聞いた。

「どうして、そんなに雫を心配するの??」

梓の目は郁哉をからかおうとしている目ではなかった。

「あたしから見ると、堂島君って雫の親みたい。“好きな人を守る”って感じには見えないのよね。“幼い子供を守る”って感じ。」

梓はそう言うと、郁哉にペットボトルを半分渡し、「持っていって。」と言った。
梓から受け取ったペットボトルを見つめながら足の向きを変える。

<“幼い子供を守る”…。確かにそうかもしれない。>

郁哉は梓が言った言葉を再度心の中で呟いた。
不意にあの頃の記憶が脳に甦る。

雫の真っ青な顔。

雫のうつろな目。

今にでも消えそうな身体が…。

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