同期が急に変わったら…。
第2会議室で、

将生を待って10分。





『悪い。待たせたな。』

『いえ。』



……怖い。

何を言われるのか、

……怖い。






ガチャリ。





将生?

鍵閉めた?





『いずみ。』

『えっ?』





急に抱きしめられた。

将生の腕の中。



タバコの匂いがする。

将生の香水の匂いと一緒に。






『どうしたの?』

『いずみ。』

『うん。』

『くそっ。』







私をもっと強く抱きしめて、

髪にキスをする。

私の首筋に顔を埋める。






何かに怒ってる。

ムっとしてるもん。




『ねえ。どうしたのよ?』

『ああ。』





将生は、私を離して




『座ろう。』

『うん。』




将生が椅子に座って、

隣りの椅子を

少し斜めに引いた。





そこに座れと促され、

静かに座る。





将生は自分の椅子も

私の方に斜めに角度を変えた。




隣り合わせて座っていても、

斜めに座っているせいで、

お互いの顔が見えてて

少し伺うように将生の顔を見る。




やっぱり機嫌がよろしくない。

さっきまで、

『俺がもらってやる』なんて、

殺し文句を言ってたのに。







『企画がいずみを引き抜くそうだ。』




椅子の背凭れに背中を付けて、

嫌味なほど長い足を組んだまま

話し始める将生。



『えっ?』


『前に言っただろ?
企画が欲しがってるって。』


『うん。でも…。』


『お前の意志と俺の判断で、
営業に残したいと伝えてたんだよ。』


『うん。』




真っ直ぐに私の目を見て

話す将生。

重要な話をされているんだけど、

そのいい男の眼差しに、

胸が熱くなってしまう。





『お前は、
営業に向いてると思うし、
補佐の仕事もよくできてる。』


『そんなこと…。』


『俺の個人的な感情だけじゃない。
上司としての判断だったんだ。』


『うん。』


『でも、今朝、企画の部長が
いずみの異動を
上に通したって言ってきた。』


『え?上にって…。』


『ったく。勝手な事しやがって。』


『……。』


『課長としても、
課長としてじゃなくても
お前を渡すつもりはなかった。』


『……。』


『いずみ。ごめんな。』


『そんな。将生が悪いわけじゃ…。』


『いや、俺の力不足だ。』


『将生…。』




私、将生の事、
すごく尊敬してるよ。



力不足なんて、
言わなくていいよ。



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