代償

私の横に座って、じっと見てくる。
メガネだ。
黒く太い縁のメガネ。
さっきはつけてなかったけど、コンタクトレンズでも入れてたのかな。
「わりぃ。もっと早く気付くべきだったな。許せよ」
………どっちにしろ、命令形。

「………文香。いつから、声が出なくなった。その傷ができたと同時にか」

分からない。
喉が痛くて、声が出なくなった。
叫びっぱなしだったから、仕方ないと思ってた。
「………どっちにしろ、病院は確定だ。明日行くぞ」
………保険証、ないのに。
どうするんだろ。

「まず、寝ろ。病院で居眠りなんかされちゃぁ困る」
頷く。
「お前を殴る奴はいない。安心しろ。来たとしても、逃げるだろうからな」

………だよね。
前橋組の総長なんて、喧嘩売ったら殺されるよ。
「寝ないなら、酒でも何でも飲ませて強制的に寝せるからな」
………わーお。
未成年者はお酒飲めないのに。
………流石、総長。

「いい子だから寝な。明日は早いぞ」
………上時、あんたには優しい言葉は似合わないよ。
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